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「本当に物が少ないですね」
「元々持ってねえ可能性もあるが、片付けたのかもしれねえな。死ぬつもりだったわけだし」
「彼女が後に遺される私たちを気遣って?」
「ははっ、天地がひっくり返ってもありえねえか。じゃ、前者だな」
部屋はキッチン&ダイニングを含め三つ。A個人の部屋と、もう一つは無惨用の部屋らしかった。一度も暮らしていないだろうに、一番広く日当たりも良い部屋に、机やベッドや箪笥が備えてある。布団はAのものよりも綺麗にされていた。
Aの部屋はベッドではなくフローリングに布団を敷いていたようで、無惨の部屋より狭いのに広く見えた。服も制服と私服数着のみ、小さな机の隣に本棚。中には医療関係のものしか置かれていなかった。
「本は学校に寄付させていただきましょうか」
「あーそうだな、後で校長先生に御連絡するわ」
「お願いします」
持ってきていたダンボール箱を組み立てて、中に本を詰めていく。何回も開いた跡があった。
中にはAが自筆でまとめたと思われるノートも数冊出てきた。無惨の病気に関する数百の考察とその対処法が記されていたが、全てにおいて赤いペンでバツ印を描かれている。終わりに近づくにつれバツ印が乱雑になっていた。最後には力を入れすぎてペン先がひしゃげたようだ。
悔しさが痛いほど伝わってくる。
「……」
そのノートはダンボール箱には入れず横に捌けておいた。本来の目的ではなかったとしても、ここに記されるいくつかの考察や手法は、現在の医学に役立つかもしれない。
本を出し終え、しのぶは立ち上がった。
「……?」
もう一度しゃがむ。違和感があったのだ。
本棚の奥行きが、上段と下段で違って見える。
しのぶは下段に手を突っ込み、奥の木版に触れてみた。軽く押すと、動く気配。
「!」
仕掛け棚だ。
力を込めて、木版を横にスライドさせる。元々そういう造りではなかったのだろう、中々に動かしづらかった。そして木版の裏に、封筒のようなものが隠されていたことに気がついた。
「これは……」
封筒には何も記されていなかった。迷った末に封を開け、中の便箋を取り出す。
季節の挨拶もなく砕けた言葉で始まる手紙は、確かにAの遺書だった。
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