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こほん、混沌とした場を鎮めるように咳払いを一度挟む。
「二階堂さん。また後程に改めてお伺いさせていただきますので、お土産はその時に」
「「二階堂さん！」」
二人は食い気味に私の呼称を反復する。恐ろしいまでの息の合い方とその声量にびく、と身体が跳ねた。先程菊田さんがそう呼んでいたように聞こえたのだけど、間違えていたかもしれない。
間違えていたら失礼なことをしたと思い「ちがうんですか？」とおそるおそる二人の顔を覗き込む。まるで表情が変わらないから感情がわからない。気分を害してしまったかもしれない。
「「合ってる」」
合ってた。
「その顔どういう感情なんですか？」
「俺が洋平、こっちが浩平」
「……さっぱりわからない、です…………」
「「えーッ」」
思わずといった形でぼやいた失礼な言葉を意に介するでもなく割と本当にびっくりしたような表情の二人。
あわあわとお互いがお互いを指差しつつ、こっちが浩平で俺が洋平で洋平がこっちでそっちが浩平で、と紹介を始めた。
が、違いがわからない。某ファミレスの間違い探しを思い出しつつ、訳もわからず相槌を繰り返した。
「後で当てさせよう」
「名案だな」
名案？と顔を顰めたいのは山々だが、努めて冷静に「善処します」とだけ返した。
反射的に返したこの言葉だが、口にするのは随分久しぶりだ。本社勤めの時に一度だけ使ったが、上司に言おうものならフルスイングでチクチク言葉を叩き込まれるNG返答である。
本社のことを思い出して心の底に泥が積もっていくのを感じ、視線を下に落とす。
「猫被り藤崎だ」「緊張してるんだ」
二人は同時に何の脈略もなくズンと私の頬に人差し指を埋めた。ほぼ強制的に視線が持ち上げられる。本当にすごいなぁ、この人たち。強烈というか何というか。
慣れない形の歓迎法に固まっていると、二階堂、と菊田さんが呆れたように低い声で囁いた。二人は引き際を察したようで、それでも楽しそうにくすくすと悪戯っ子のように笑いながらデスクに向かっていく。
「悪いな」
大変ですね、と返事をした。菊田さんはそれを肯定も否定もしなかったけど、まあ無言の肯定なのだろう。
「あ、菊田さん。総務行くんですよね。これ、渡しておいてください」
「おいおい。すぐそこだろ」
「いいじゃないですか。ついででしょ」
……ぼうず。
次いで菊田さんに声をかけてきた男性を見上げ、この支社の坊主率と筋肉率をぼんやり考えた。
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続く
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作者名：エコ | 作成日時：2023年4月10日 23時
