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「総務と営業と人事が二階。三階は企画部と経理だけど、その片隅に……今は机椅子とパソコンぐらいしかないが、システム部。各階にそれぞれ資料室と会議室やら給湯室やらが並んでるが、後で案内する。ああ、でも仮眠室は二階だけな」
「わかりました」
エレベーターに乗り込み、階別のパネルが光る前に陣取り、二階のパネルを押す。総務部で名刺を受け取り挨拶回り、と順路を辿るならおそらく二階の各部署を回ってからようやく自部署に着くのだろう。
(もはや反射といえるこの行動だが、実のところ私はこのエレベーターにおける下座とか上座とかそんなものは本気でくだらないと思っている)
これから私が所属となるシステム部は、私の転勤をきっかけに新しく設置が決まったものらしい。それまでは本社か外部(フリーランスのほう)に委託していたそうだが、支社ができて以来一度も部署として置こうという話はなかったとのことだ。
本社でさえペーパーレスがまともに進んでいない会社だから、もはや転勤した先が実態がどうだとしてもさして驚きはしない。しかしこの支社はグループの他と比較しても業績が非常に良いらしい。だからこそ同期には栄転と言われたわけだが。
しかし、想像より広くて道が覚えられるかは不安である。ちらりとエレベーターのパネル上に目をやると簡易的な社内の案内図はあるが、残念なことに小さくてわかりづらい。
「本社と違ってそんなに複雑じゃないが、迷ったら近くにいるやつに声かければいいから」
「迷いませんよ」
「どうだかな」
案内図を見上げていた視線を背後に移す。
菊田さんは私が自分用に目印と共に地図を書き込んでいたメモ帳に視線を落とし、笑っていた。
メモは社会人の基本だよ！五回通った道はあんまり迷わないし！道を迷いやすい特性を十分理解しているから今日だって一、二本早い電車とバスで来られたんだもん！……と、熱く反論する気持ちは心の奥にしまっておく。なんだか不思議と悪意あって言っている感じはしなかったから。
「にしてもえらい荷物だな」
「挨拶回りに手土産を、思いまして。東京土産です。厳選する時間がなくて大したものじゃありませんけど」
「うちの連中は誰も気にしないとは思うがな。持つから寄越しな」
「自分で持てます」
「上司命令」
「う。……ありがとうございます」
ひょいと手元から掬い上げられた紙袋は、社会人を簡単に黙らせる魔法の四文字のせいで取り返すことは叶わなかった。
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作者名：エコ | 作成日時：2023年4月10日 23時
