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初出社の朝。
生憎の曇天空で、一面を覆う灰色の空と薄暗く湿った空気が重たくのしかかる。
早めに起き、珍しく丁寧に化粧をして、忘れ物のチェックを二回してから家を出た。バスの窓で何回か寝癖を確認したとき、改めて自分に落ち着きがないことに気付いた。
しかし、なんだかんだ到着したのは約束の十五分以上前である。嫌に早歩きになっていたのは否めない。大学の就職ガイダンスでは再三教え込まれたことであるが、こんなに予定よりも早くに出社するわけにもいかない。
仕方ないので適当に時間を潰すため近場の珈琲ショップに立ち寄る。ブレンドコーヒーをショートで一つ購入し、店員の挨拶を背に店を出た。
時期としてはまだ秋口とはいえ、これぞ北海道の洗礼と言うべきか、想像よりもずっと冷え込んでいる。指先にじんわり広がる温かさがありがたい。
そういえばバタバタと慌ただしく引越してきたためまともに下見もままならなかったのだ。せっかくだから、と散策がてらに通りを眺める。
珈琲ショップとコンビニの有無は働く上で大事な要素だが、コンビニはやや歩くだろう距離に看板が覗いていた。賃貸の近辺には見当たらなかったため絶望していたが、おかけで命拾いしそうだ。
ふと袖を捲って腕時計を見ると、七分前。珈琲をグッと飲み干し、ゴミを片付けて歩き出す。このまま中に入れば丁度いいだろう。
支社の外観は、それこそ本社よりはこぢんまりしているが、余計にごたごたしておらず広く感じる。ロビーに掛けてある絵も派手じゃなくて丁度いい。
と、のんびりしている場合ではない。見物もそこそこに受付窓口らしいカウンターに近寄り、声をかける。
「おはようございます。本日付で北海道支社所属となります藤崎と申します。担当の菊田さんに繋いでいただけますでしょうか」
「おはようございます。菊田でしたらあちらに」
「失礼しました。ありがとうございます」
あちら、と手のひらを差し向けられた先には一人の男性が見えた。にこりと爽やかに見送ってくれる受付の方に軽く会釈をして、方向転換。早歩きがちにその後ろ姿に歩み寄る。
「おはようございます。失礼ですが、菊田さんでお間違いありませんか？」
「ん。ああ、おはよう。お間違いありませんよ」
「お待たせして申し訳ありません。本日より北海道支社所属になります藤崎と申します。よろしくお願いいたします」
薄く柔らかい笑顔を浮かべる菊田さんは、緩く優しい耳心地の良い声で答えた。
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作者名：エコ | 作成日時：2023年4月10日 23時
