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食べ終えたおにぎりの包装をコンビニの袋に入れ、袋の口を縛る。段ボールタワーのかたわらに置いてあるキャリーバッグから歯磨きセットを取り出し、歯磨き粉を歯ブラシに載せる。
改めて段ボールが積まれた室内を見回す。私は昔から持ち物が多い方でもなく、その上不思議と物への執着もさしてないせいで、引越し会社のマスコットキャラが描かれたそれは数えて片手で足りるほどしかない。収納はあまり広くない物件だが困りはしないだろう。
歯を磨きながらクローゼットを開き放つと、少し埃臭い空気がふわりと広がる。うん。案の定というべきか天井付近に仰々しいお札が二、三枚貼られていた。まあ幽霊さんが未だ健在なあたり、おそらく効果はなかったんだろう(幽霊に健在というのも変な話だが)。
––––まあ、気にするはことないだろう。彼のおかげで間取りや立地条件、築年数の割に破格の家賃でアパートに住むことができるのだ。
今のところ危害を加えるようなこともないようなので、少し変わった同居人と思えばいい。
毎夜毎夜ポルターガイストでも起こされたら話は別だが、最低限睡眠の邪魔さえなければ少し不気味なだけで大した問題にもならないだろう。
シャワーは済ませた。服は明日の朝にでもコインランドリーに行こう。その後大型家具や家電を揃えて、荷物を解けば出社までには少なくとも部屋の体裁は整う。
うがいを済ませ、口の端の泡を拭き取る。
未だ受け入れがたい現実に向き合うため目を擦り瞬きを数回してから洋間に戻る。
いないに越したことはないのだから。そう思って改めて幽霊さんを見るが、これだけ色濃く存在しておいて気のせいになるわけもなく、あぐらのような格好で相変わらずそこにいる。まあ、まあ、いつかは慣れる。自分を言い含めるように心の中で数度呟いた。
不動産のお兄さんは、通告義務は既にないにも関わらず丁寧に丁寧に説明してくれた。確か、前回の住民はサラリーマンで二ヶ月で体重を十キロも減らして出て行き、その前は大学生だったが一ヶ月と待たず夜逃げ同然で逃げたとか。その前の人はお祓いを頼んだらしい。
しかしそれを聞いても尚入居を押し通したのは自分だ。今更文句も弱音も言えやしない。
スマホでアラームをセットする。
部屋にはまだ布団すらないため、幽霊さんと対になる位置に腰を下ろす。段ボールから引っ張り出した毛布に包まると、引越しやら手続きやらの疲労からか安心からか、重たいまぶたは自然に落ちていった。
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作者名：エコ | 作成日時：2023年4月10日 23時
