【HQ】悪夢Memory【悪女主】

27 いつも通りのはずなのに。 ページ28

風町 Aside







聞かれた事を正直に答える。

武田先生はあだ名の質問以来、凄く悲しそうな顔をしていて私まで不安になる。








私は思った事を

自分にとって当たり前の事を

記憶に残っている事を




言っただけなのに……。









『では次。貴方が今まで生きてきて、
一番“楽しかった事”は何ですか？』


「楽し、かった事…？」








楽しかった事…？

思い出そうと顔を床に俯かせる。

あれ？そもそも、









“楽しいって何？”









「す、みませ…分かりませんっ……。」


「A！？」








母さんも驚いている。

でも、仕方ないじゃないか。




楽しかった事どころか、

楽しいがわからないのだから。

考えたって、思い出そうとしたって無駄だ。









『そう…じゃあ、質問を変えるわね？
排球部の仲間と最後に楽しいと感じたのはいつ？』


「…え？………。」









いつ、だっけ？

確かに皆と過ごした時の事は覚えてる。

皆の顔も、声も、


________覚えているはずなのに、







楽しかった事が思い出せない。

それに、何をして楽しいとか、

こんな事があって嬉しいとか、

分からない。









『じゃあ、次の質問。
ご家族で楽しかった事は？」









その質問にも答えられなかった。

母さんはついに溜めていた涙を静かに流した。

私はただ、床を見つめていた。





カウンセリングの先生は、

白い紙に何かを書いてから、私を見ている。








『最後の質問です。
貴方が生きてきて、一番悲しかった事は？」









ああ、それは覚えている。

少し目を閉じただけで嫌という程出てくる。

悲しかった事、苦しかった事、

全部、覚えている。








「…父が亡くなった事、です。」








そう答え、カウンセリングの先生からの質問は終えた。

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