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「っ…いった、」
「大丈夫か?」
「来ないでください!」
椅子を引く音が聞こえて声が出る。動きが止まる。痛い。泣きそうなぐらい痛い。こんなに痛いなんておかしい。
「まさか、お前…」
「A君!」
エイナさんに支えられてベッドに寝転ぶ。息苦しくて涙がこぼれる。レースの奥にいたマレウス先輩の顔が頭から離れない。あの目。あの瞳はあの時の瞳と一緒だった。意識がゆっくりと遠のいていく。
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カイラと保健室に戻っていた時にカイラが真っ青な顔色になって保健室に走り出した。何かと思って追いかけたらマレウス君がいてA君がレースの奥にいた。微かに香るΩの匂い。
「A君!」
苦しそうにしゃがみ込むA君を支えながらベッドに寝かせる。A君は気絶して寝てる。こんなに早く薬が切れるとは思わなかった。注射器に薬を入れて刺す。なにか、A君の負担にかかるような事があったのだろうか。マレウス君?いや、彼の性格上そんな事はしない。マレウス君はカイラに連れて行かれた。もう、彼には隠せない。
「エイナ」
「カイラ…マレウス、君…」
「これは、どういう事だ?」
「…マレウス君が見た通りの事だよ」
「そんなので分かる訳ないだろう」
声色に怒りを感じる。Ωって事を伝えて。他に何を伝えられる。A君はαに対して良く思ってない。これ以上A君が苦しい思いをしないようにしないとダメだ。どう説明しようか、と頭で考える。
「A君は…Ωだよ」
「僕に嘘をついたのか」
「…うん。そうだね」
「なんで嘘をついたんだ」
「A君の希望だよ。A君が言いたくないって。だから、僕達はA君を守る為に嘘をついた」
これぐらいまでしか言えない。嘘をついていたことは申し訳ないって分かってる。けれど、ベラベラと喋ってA君がもう一度死にたい、だなんて思ったらそれこそ取り返しがつかない。1人の生徒として。1人のΩとして。僕はA君の事を守らないといけない。嘘をついてでも。
「なら、この間の定期検診とやらもか?」
「そう、だね。ヒートの期間は僕達が預かってる」
この失態は僕のせいだ。A君のヒートの現状を見て副作用を抑える為に薬の時間を半日までに減らした。それは事前に伝えていたけれどなにかしらの事があって。A君の心身に多少なりかの影響があった。もう少し僕が見ておけば良かったんだ。
「僕のせいだよ。A君は何も、何も悪くないんだ」
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ピピ - やばいぐらい主人公が好みです! (2020年6月4日 16時) (レス) id: de2e77a72a (このIDを非表示/違反報告)
伶(プロフ) - おっふ(^^) (2020年6月3日 0時) (レス) id: 472a16cc4c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:田中 | 作成日時:2020年5月30日 11時