100万回目の告白 5 ページ5
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結局俺が受けることができたのは一番頭の良い高校ではなく、その次の次くらいのレベルだったけど、Aは「ムラカミの偏差値、すいすいあがって楽しいね」、とニコニコしていた。
俺は何度も、自分のレベルにあった高校を受けた方がいいとあいつを諭したけれど、あいつはケロッと「私のレベルに合う高校なんて日本にはない」と言い放ち、殆ど対策もせず俺と同じ高校に合格してみせた。
俺たちはその頃、多分あまりに仲が良すぎただけで、別に恋愛関係にあったわけではなかったのだけど
あいつが心を開いているのは俺くらいだろうと信じて疑わず、俺は言葉にせずともきっといずれそう言う風になっていくものだと思っていた。
「高校に入ったら、もっとうまくやろう」
「え?」
「なんでも答えがわかっちゃう人なんて、気持ち悪いでしょ」
「んなことないよ」
「ムラカミだけなんだよ、そう思うのは。まじで意味わかんない」
「いや、だってA」
「私が身につけなきゃいけないのは、馬鹿なふりをする力なんだよ」
「……」
「ムラカミの前でだけは、天才でいさせてよ」
「……なんやねん、らしくない」
思えば俺の周りにも「高校デビュー」と銘打って髪型を変えたり、性格を一新しようとした奴がいたけれど、
それは多分イケてるやつへの羨望の裏返しだったり、異性にモテたい!みたいな薄っぺらい気持ちによるもので、
それはあいつには、似合わないと思ったのだ。
あいつはかっこよかった。学年の誰より、先生たち大人より、誰よりも頭がいいのに、一度だって人を見下したり、馬鹿にしたり、自分を奢ったりしなかったから。
高校に入って、俺たちはまた同じクラスにならなくて、なんでこうもバラされるんだろうと、俺はその時運命を憎んだ。
中学までと変わった事といえば、俺たちは最寄駅が同じなのをいいことに時間さえ合えば登下校を共にした事だった。
秋口くらいだっただろうか。
風が冷たいある日の放課後だった。
「同じクラスの鎌田君に、ムラカミと付き合ってんのって聞かれた」
「あ?」
俺は、
ほな付き合うか?とか、あー、じゃ、いい加減付き合ってもええか、とか。
そんな自分に都合のいい告白の言葉を思い浮かべては消して、あいつの次の言葉を待っていた。
「付き合ってないって言ったら、じゃあ付き合わない?って。私のこと好きなんだって」
何を言っているのかわからなくて。
「だから、鎌田君と付き合うことにした」
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作者名:猫彦 | 作成日時:2021年2月20日 11時