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三日月の夜の真ん中 ページ11






ああ、死んだな。

それはとてもあっけなくて、痛みもほとんどわからなかった。

バイクに真横から突っ込まれた衝撃は、案外そんなものだった。

死んだら天国に行けるだとか悪人は地獄に落ちるだとか、三途の川を渡るだとか、あまりそういうのに興味もなければ精通もしていなかったけれど、でも、確かに死にたくないと思った。

まだ、死にたくない。

あの子に伝えられてない言葉がある。

もう会えないなんて、悲しい。

あの子が泣いていたら、俺が気づいてあげなきゃいけないのに。


ずっと走っているみたいだった。例えるなら木漏れ日の中を、まばらな柔らかい光の中、だけどなんだか悲しくて暗かった。

自分が何処に向かっているのかわからなかった。ただ、街のリズムに負けないように、まだ死にたくないと駆け出していた。

疲れていた。思うように脚が動かない。もがいてももがいても、全く前に進んでいない気がした。



悲しい影を見つけた。

東京のアスファルトに滲んで、今にも消えてしまいそうな悲しい影だった。必死でそれを追いかけた。まだ、明日を願いたい。



ガチャン、と乱暴にドアが開く音がした。ハッとして音のみなもとに目を向けるとぐちゃぐちゃな顔で泣きはらし、靴を脱ぎ捨てそのまま部屋に倒れ込む君がいた。


ああ、やっと会えた。
まだちゃんと、明日がある。

風になって君を探していた。君にさわれなくても、いいのだ、それで。

悲しくなんてない、俺の悲しみの代わりに月は欠けてくれている。全部失ったっていい、かわいい君が笑っていれば、それでいい。

俺はぜんぜん悲しくなんてない、
だから泣かないで。

君とまた笑いたかった。

大丈夫、すぐ、夜は明ける。









「なーに泣いとるねん、ぶちゃいくやで!」







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作者名:ねこひこ | 作成日時:2020年3月2日 2時

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