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溺るる、さむがり ページ8






「ただいま」


冷たい廊下の電気をつける。
今日は今年いちばんの冷え込みらしい。

朝のワイドショーで可愛い女の子が確かそんなことを言っていた。

去年少し奮発して買ったコートを脱ぐと
シンとした家の温度の低さが余計に身に染みる。


「遅かったなあAちゃん」

「ちょっと忙しかったね」


この部屋に越してきた時、
こだわって選んだ間接照明を次々とつける。

暗い部屋に柔らかい光がぼんやり宿る。

その隅っこで、しょうちゃんは今日もニコニコしていた。

オレンジ色の光と、薄い身体のしょうちゃんはなんだか不釣り合いだなと思う。でも彼は笑っている。


若い時は散々な生活をしていたし、
家なんて寝るためだけにあったようなものだったけれど。

30歳を超えて、お金ばかりあって、
何か暮らしを変えようかと越してきたのがこの部屋だった。

そして、しょうちゃんと暮らし始めた。

特に不満はない。
冬は確かに冷えやすいけれどその分夏場は快適だし。

仕事人間のわたしにとってほとんど唯一の癒しと言ったら、おかえりと言ってくれる人がいる家に帰ることだった。

一人で住むには広いかもしれない部屋も、小柄なしょうちゃんとであればちょうどいい。


「こう、さ」

「ん〜?」


わたしはよくしょうちゃんに語りかける。
仕事であったこと、愚痴、悲しいこと、嬉しいこと、自己分析、見た夢の話。


「わたしは確かに仕事ができるけど、それを才能だなんて思って欲しくないんだよね。
わたしはわたしなりに、できる人の真似をしたり効率化を考えたり、いろいろ努力を重ねて今のわたしになったわけで」

「せやなぁ。よう頑張ってるもんなぁ」

「うん、確かに頑張っているけど、その努力はわたしにしかできないものなんかでは無くて誰でもできるものだとおもうの。やるかやらないかの違いだとおもうの」

「なるほどなぁ」

「頑張っていることが偉いとは思ってないのよ。仕事量が多くても出来る人は時間内で終わらせることができるもの。それができないわたしはまだまだなんだ」

「うん」

「働いていることで自分を正当化しているだけなのかなぁ」


しょうちゃんは聞き上手だ。
大人のように理屈たらし込んだアドバイスなんて絶対にしない。わたしを絶対に否定しない。

こんな小さくて薄い体に、
どうしてこんなに優しい心が宿るんだろうとおもう。



原因は覚えていないけれど
わたしは小さな頃の記憶がかなり欠落している。




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作者名:ねこひこ | 作成日時:2020年2月13日 21時

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