DUSTBOX0.0 (ページ17)

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富士のアヤメと鷹の爪　7 ページ17

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厳しい寒さが和らいで、母校の校庭の楓は、もう新しい緑色の葉っぱが見えだしていた。わたしは東京で暮らし始めて、夏を迎える。

Aさんが個展を開くから、もし都合があったら手伝ってくれないかと連絡が来て、上京からそう日は立っていないけれど、はじめて帰省の準備をしていた。

『だからー。こっち帰ってくるんでしょ？センセーにも挨拶行こうよ、アタシも行ってあげるから』

「そんなこと言ったってまだ卒業から半年もたってないんだよ？なんか恥ずかしい」

『センセーだってアヤメちゃんに会いたいに決まってるじゃん！』

電話越しの彼女は、あの頃と何も変わっていない。就職して少しは話し方が変わるかと思ったけど、全く同じだった。

『じゃー、アタシがセンセーに会いたいから、アヤメちゃんもついてきて！ね、お願い！』

「……うん、そう言うことなら、いいかな」

『やったー！決定ね！』

地元に戻って、駅まで迎えに来てくれた彼女が大きく笑って手を振る。ショートパンツに柔らかなブラウスが可愛い彼女によく似合っていた。

「メイク、少し落ち着いた？」

「あ、わかる？つけま辞めたの。今のカレシがいやって言ったからさー。ヒドくない？ま、瞼軽くて楽だけどね」

「すごくかわいいと思う、どっちも」

卒業ぶりに会った錦戸先生は、私たちを目にすると少し照れたように「もう恋しくなったんか」と笑った。

ああ、好きだ。先生のことが好きだ。

「田中ちゃんと仕事できてるんか、相変わらず派手やなぁお前」

「は？ちゃんとバリバリ働いてるし！てかセンセー見る目ない！今めちゃめちゃ清楚系なんだけど！」

「どこがやねん」

高校を卒業して、肩の荷が降りたように考え方が変わった。わたしが思っていたほどわたしは大人じゃなかったし、わたしが思っていたより先生は普通の大人だった。

かっこいいからじゃない、優しくしてくれたからじゃない、わたしはなぜかこの人のことが好きみたいだった。

「藤咲は？東京どうなん。大変か？」

Aさんが、今度結婚するらしい。相手は先生じゃなかった。彼女に、もともと付き合ってないよと、派手に笑いながら否定された。

「……いえ、楽しいです」

「その目でいろんなもの見るといいよ」

個展の受付を手伝うといろいろな人がAさんの絵を見に来た。昔の恩師だと言うお爺さんやカップルや親子。

タカコが花を持ってきた時、彼女の爪はアヤメ色だった。

タカコは
その爪を隠さない。