DUSTBOX0.0 (ページ15)

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富士のアヤメと鷹の爪　5 ページ15

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「……タカコの方が、絵も上手だし、みんなと仲良くできてるから…」

「えー！ウソ！アヤメちゃんにそんな褒められるの嬉しー！けど、ぶっちゃけ他の子たちもみんな部長はアヤメちゃんって言ってるよ。ほらアタシ馬鹿だしさ、ギャルだし」

「でも…」

「あのね、バイト、めっちゃしないといけないの。これ内緒ね？昨日休んだのもバイト。ウチ、貧乏なんだ。パパが出て行っちゃったから」

「……っ」

「高校卒業したら働くんだ。弟には好きなことさせたいじゃん？部活もね、まーセンセー目当てで入ったのはガチなんだけど。本当はそんな暇あるなら稼いでこい！！って言われてたから前まで帰宅部だったんだ」

ねえ、タカコ。

わたしとタカコが、反対だったら良かったね。

どうしてそんなに笑っていられるの？どうしてそんなに明るくいられるの？どうしてわたしに、そんな話をしてくれるの？

タカコの爪に赤紫色のマニキュアが塗られていた。タカコが大きな身振りで話すたびに、アヤメ色がチラチラと舞う。

あなたが、藤咲アヤメだったら。わたしに似合わないこの可愛すぎる名前は、タカコにならとても似合う。

タカコの才能なら、どんなところへだって行けた。東京だって、海外の大学だって。行けたじゃない。なのに。なのに、どうしてタカコは。

「でも美術部楽しい！センセーまじかっこいいし、それにアヤメちゃんとも友達になれたし。入って良かった！あ、ゴメン。だからね、ふつーにアタシ、部長とかできないの。あんま部活行けないからさ」

「ごめんなさい…そんな話をさせて」

「え！謝らなくていいんだよ！！アタシ、全然元気だし、パパのこともママのことも好きだから。あのね、アタシの絵褒めてくれたじゃん？アタシに絵教えてくれたのパパなんだよ。だからアヤメちゃんに褒められてちょーうれしかった」

ああ、勝てないな。わたしは確信した。わたしは今後どんなに努力をしても、タカコには勝てないんだろう。

この子にあって、わたしにないものが。
わたしには決定的にタカコにある何かが欠けている。

「あ、あとね。センセー、マジでアヤメちゃんに期待してるっぽいよ。アタシ、ちょっと嫉妬しちゃった。センセー口を開けば藤咲藤咲って。もう、アタシのことも見て！！って思わない？ってコレ、アヤメちゃんに言う話じゃないけど」

校庭の楓が赤く色づいた頃文化祭が終わって、わたしは部長になった。

タカコは、バイトが忙しいと、部活に顔を出さなくなった。