富士のアヤメと鷹の爪 4 ページ14
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「藤咲は美大志望やろ？どこ行きたいか決めてる？」
「……はい」
「親御さんにも言ってある？」
「え、はい…」
「うん、藤咲は上手いよ。上手いし、もっともっと伸びるんやろなと思う。いいとこの美大入ってもっと勉強して、んで、描いた作品を見たい」
先生の少し掠れた低い声が、広い美術室にしんと響く。先生の視線の先は、立てかけてあった古いイーゼルに乗せたままの、タカコの作品だった。
まだ、タイトルはついていない。
「俺この学校来たの今年からやけど、藤咲んことは努力と感性の人なんやな、って見てるんよ。ここまで努力できるのはすごいよ、なかなかできることじゃない。……んでしっかりしとるしな、副部長やった経験もあるし。藤咲自身が嫌やないんなら、俺は部長向いてると思うよ」
ま、最後は生徒たちが決めることやけどなぁ。と小さく微笑んだ後、先生はそろそろ帰りなさいとわたしに言った。
優しかった。先生がとても気を遣っているのがわかって苦しい。面倒だと思われただろうか。そう思うと辛くて恥ずかしかった。
家に帰ると、真っ赤に目を腫らしたわたしを見てお母さんが心配そうにタオルを巻いた保冷剤を持ってきてくれた。目を閉じて、まぶたにそれを乗せるとひんやりと、じんわりと、醜い気持ちが溶けていくようだった。
翌朝鏡を見ると、瞼は依然赤く腫れていて、自分の顔が見ていられないほどでまた泣きたくなった。
そうして学校に行く。わたしのクラスの前に、別なクラスのタカコが立っていた。
お尻のあたりで手を組んで、つまらなそうに床を見ている。
タカコがわたしに気づくと、ひまわりが咲いたように大きく笑った。
「アヤメちゃん！オハヨ。あのねアヤメちゃんに話したいことがあるの、あ、昨日部活休んじゃってゴメン。今時間、イイ？」
忙しい子だな。その忙しなさに笑ってしまう。仕方ない。タカコは本当に可愛いのだ。
「あのね、アタシこれからあんま部活出れないかもしれなくて。先輩に言おうかと思ったんだけど、来月引退じゃん？そんなこと言われても困るって感じカナって思ってさ。ウチラの学年の次期部長ってアヤメちゃんでしょ？だから、そのこと言おうと思ったの」
「え、ちょっと待って」
「あ、ゴメン。アタシほんとしゃべりすぎだよね」
「ううん、違うの、わたし、次期部長って決まったわけじゃ…」
「え？でもどう考えてもアヤメちゃんじゃない？逆になんで？」
なんでって
タカコの方がいいからよ。
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作者名：ねこひこ | 作成日時：2020年2月13日 21時
