ケンカ_9 ページ9
病院から総悟が出てきた。私の涙は未だ止まっていなくて、銀さんに背中をさすられながら泣いていた。
総悟が銀さんに何かを耳打ちすると、銀さんはめんどくさそうに頭を掻いて、手をひらひらと振って帰っていった。
「A、帰るぜィ」
その声はとても優しくて。私は腕を優しく引かれながら総悟に付いて行く。その間も私は泣いていた。総悟は何も言わず、ただ私の腕を引いていた。
総悟の家につくと、総悟は私をソファに座らせ、ココアを作ってくれた。季節外れのココアだと思う。熱々のココアを机にコト、と置き、私の隣に座る。ぎし、とソファが軋む。ただ私の泣き声と時計の針の音だけが響くリビング。
「うぐっ、ひぐっ、」
私が泣いているときに何も言わずに寄り添ってくれる彼をまた一段と好きになって、「ありがとう」と呟けば、「別に」って。
総悟がミツバ姉に会いに行っているときに背中をさすっていてくれた銀さんでもなくて結局はこの人が一番なんだって改めて思う。
バカとか言い合ってきたけど、多分一番バカなのは、この人に付いていっている私なのだろう。
「少し、落ち着いたか」
「……うん」
私の涙も止まって、ようやくココアに手を付けた。甘くてほんの少し苦くて、美味しい。自然と笑みが溢れる。総悟はそんな私を頬杖をついて見ていたようで、ふっと笑った。
「お前は笑った顔が一番でさァ」
「……いきなり何よ」
真っ赤になった頬を隠すようにそっぽを向く。総悟は、またふっと笑うと、私の頭をぽん、として立ち上がった。
「今日は泊まって行け」
「え、なんで?」
「……何でも!」
耳まで真っ赤になっていることに本人は気がついていないらしい。
可愛い、なんて思いながら、はいはいって笑った。
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作者名:廉火 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Konatu0602/
作成日時:2018年4月16日 2時