39話 ページ39
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「____Aもきっとそう遠くない内に、"また"ね」
自分の言葉に反吐が出そうだった。Aと再会するのはもう、百鬼夜行当日ですらも望めないというのに。
それでも、敵意を向けるその瞳が揺らいでいたのを見てしまった私は、どうしようもなく何かにすがりたくなったんだ。
Aと最後に会ったのは、昨年の12月24日だろうか。もうあれから一年近く経過していることが恐ろしい。歳を重ねる毎に体感する時が短くなっている中で、彼女がいない一年を過ごせた自分が憎たらしかった。
「夏油様、やけに長く話してたあの女誰?」
「....久しく会ってない同期だよ。声も思い出せないくらいだったからつい、懐かしくて長居してしまった」
ほら、また彼女の痕跡を消すためにこんなにも必死に嘘をついて。こんな私を彼女には見せられない、自負してしまうほどの情けない姿なんて。
Aは私だけの中にいてほしい。そんな願いは、墓場まで持っていくと決めている。
....それなのに、君のことになると何もかも掻き乱されるんだ。
「....会いたいよ、A」
たったそれだけの願いだ。また私と視線を交わして、小さなその手で私に触れてほしい。
贅沢なことは何も望んでいない、だとしてもこの世は私に手を差し伸べてくれない。そんなことは、離反したあの日から死ぬほど理解しているはずなのに。
まるで私を嘲笑うかのように。百鬼夜行の前日、私達をあの部屋へと導いた。
本気で馬鹿なんじゃないかと彼女を叱った。今日は約束の日じゃないというのに、こんな日にまで私を探してここを訪れるなんて。もうあの場で会ってしまっては、秘密の関係なんてものは持ち出せない。私はAの、この世界の敵なのだから。
"来てほしくなかった、願望で終わらせたかった"
畳に組み敷かれ、濡れた瞳を揺らした彼女から目が離せない。私の声に耳を傾け抵抗の意志を見せないAは、少しずつ私の心を掻き乱していく。
"逢いたかった、会いたかった"
仮面を被った再会なんかじゃ、到底満足なんてできなかったんだ。それでも、君はここに来てはいけなかったんだよ。私の最後の思い出として、この部屋を目に焼けつけたかっただけ。それだけだったんだ。
『....それでも、私は貴方に会いたかった...』
だからもう、やめてくれ。
素直にならずとも触れて愛せただけでも、私達は十分に幸せだったんだ。
....そんな自身をも戒める言葉は、もう聞こえない。
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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時