検索窓
今日:31 hit、昨日:73 hit、合計:65,808 hit

26話 ページ26

.



「布団が一人分しかなくてね。私はこたつで寝るから、遠慮なく使ってくれ」



早くも日を跨いだ、夜遅くのこと。今日という日に感化され、私の心はずっと、魔法にかかったように浮ついている。
いつしか話の流れが就寝のことになって、少し気まずそうに彼は笑った。ここで首を振ったところでそう簡単に折れてくれないのは分かっている。でも、私にとっては少し都合が良かった。そんなの勿論、単なる我儘でしかないのだけれど。でもその勇気を出すために、素直になるために。できることはひとつだった。

私にとっての、おまじない。



『....夏油。ちょっとこっち、向いて』



自分でも笑ってしまうほど下手な誘い方。それでもすぐにこちらに視線を向けてくれた彼と目が合う。一瞬ばかりの胸の高鳴り、手を伸ばした先で触れる肌と柔らかな唇。ほんの小さく鳴る、背伸びをしたようなリップ音。
頬が赤く染まっているのは嫌でも分かる。でも、夏油も少し予想外というような表情を見せてくれて自分の中のストッパーが外れた、気がした。



『私と、い、一緒に寝るのは、嫌....?』



その一言だけで精一杯だった。誤魔化すものもないくせに目線を逸らした。すぐには聞こえてこない彼の声。自我を置いて心臓がやけに早く脈を打つ。
数秒経ってようやく、自分の言ったことがどれだけ思い上がっているかを理解した。この沈黙は引かれている、そんなの彼は求めていないんだと。

恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。それでもまだ訂正できる。今すぐにでも、いつものように態度を変えてしまえば___



『....なんて、勿論冗談___』

「とは、言わせないよ。もう遅い」



机の木目をなぞっていた視線が瞬時に持っていかれて強引に目が合う。顎を引かれて唇を塞がれる寸前だと気づいたのは、少し後のこと。先に襲いかかってきたのは酷く甘い口封じだった。先程の不意打ちとも言えるキスを、更に上書きするようにも思えた。
やっぱりこうやって触れている間だけは、彼の気持ちをこの世の誰よりも理解しているような気になった。思い違いかもね、でもそれもまた、甘い。

やがてこたつの温度と体温が全身を襲って、浅く息が漏れる。どんな状況ですらも顔色を変えない彼の額に、雫が伝っているのが見えた。



「そんなに寂しんぼだったなんて、見違えるね」

『....誰のせいかは言わないであげる』



一瞬でも想いが通じ合うのなら、それに縋っていたいの。

27話→←25話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (159 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
526人がお気に入り
設定タグ:呪術廻戦 , 夏油傑
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。