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15話 ページ15

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「どうしたんだよ不貞腐れて。なんかあったか?」

『....アンタが人の心配するなんて、雹でも降るの?』



そんなに分かりやすかっただろうかと手鏡で自分を見つめる。あれから数日間通ってみたけれど、夏油の姿はなかった。勿論呪力の残穢も。定期券を握り締めて、呪霊瓶のストックだけが積み重なる毎日は切ないのに。

感情が顔に出ていたのはあまり良くない、気を引き締め直そう。そう思いながら、目の前で僅かに大人びた顔をした五条を見つめてみる。夏油のことがあったからなのか、五条は少し、人の感情や内面的なものに敏感になった気がする。というより、気にかけようとしているのが表に出ていた。



「....んだよ、急にガン見すんな」

『してないし。誰も五条の顔になんて興味ない』



第三者から見れば不仲な態度を取りながら席を立つ。五条に対してまでこんな風になってしまったのも夏油が関係していた。いつだって二人は隣にいたから、夏油と接しようと思えば自然と五条にも同じ口調になってしまう。それが馴染みすぎてしまったせいで、今更戻す気にもならない。
だからか私は、硝子と話すときだけは素でいられた。まるで彼らへの態度の反動が押し寄せるかのように。彼女が周りの人間と違うことは、よく分かっていたから。

....結局私はずっと前から、夏油への恋心に振り回されていたんだ。それをいつしか、受け入れて。



『どうってことないから、大丈夫。ありがと』

「....ん、ならいいけど」



彼に背を向けたまま去り際に小さく手を振り、気持ちのやり場を探すように自室へと戻った。医務室にいる硝子の元を訪ねようと決めていたのに、五条の気遣いが夏油への想いを煮え立たせてどうしようもなく泣きそうになる。

部屋に戻ればすぐにあの部屋の鍵を握り締め、ベッドへと沈む。軽く音を立てたキーホルダーは、いつしか少し傷が入っていた。

....当たり前の日々が明日も続くなんて、どこにも保証はなかったのに。彼が離反したあの日に、十分過ぎるほど分からせられたのに。
たとえあの部屋の存在が私達を繋ごうとも、本来の立場が変わるわけじゃない。あくまでも非日常でしかなかったのに、盲目な私は浮かれていたんだ。


唐突に現実が押し寄せて、嗚咽が零れる。
シーツに涙が染みて、冷たくなっていた。



『....やだ、会いたい、触れたいよ....』



移り変わる彼の番号から着信なんて、来るわけない。
....約束の部屋以外に、頼れるものなんてないのに。

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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時

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