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『ごめん、急な任務入っちゃって。明日の夕方には帰るよ』
2月3日。あの日から一年が経った今日、あのときと同じ目、トーンで私に話しかける。
去年と何が違うかといえば、悟と硝子からの誕生日会の誘いを断ったことだろうか。命日が重なったせいで、祝う気持ちにはとてもなれなかった。
「帰って、くるんだね」
『うん、そう明日ね。大丈夫心配しないで』
「Aは強いもんね」
『大丈夫だって、じゃあ行ってくる』
そう言い、笑顔で手を振る彼女。
けれどすぐに目線を落とす。
『...先に誕生日おめでとうって、言った方が良かったかな。でも明日帰ってくるし大丈夫か』
目の前でそんなことをポツリと呟く。思わず顔を上げ彼女を見つめた。こんな会話はしていない、というより独り言のように聞こえる。
....私の知らないあの日のAだろうか。
なんだこの小さな奇跡みたいなものは。誕生日だからサービスというやつなのか。一周忌でもあるというのに。
いつものように何も期待せず、彼女の存在を無視することもなく生活を続ける。触れなくても、会話ができなくても近くにいるだけでなんとか心は保っていられた。
自分でかけてしまった呪いなのだからそういうものなのかもしれない。
普段通り向かいに座ったAは、話すことがなければずっと同じ顔をしている。ただ微笑んで、私を見つめて。目が合うと少し驚き、けれどとても嬉しそうに笑うんだ。
彼女がそこにいるんじゃないかって錯覚してしまいそうになる。
「...A、一年経ったね、君があっち側に行ってしまった日から。君の事だからあっちでも沢山友達とか作ってるんだろうね」
目の前の彼女に、上に行ってしまった魂に語りかけるように、うっすらと笑みを浮かべた。
「でもそうだな...昔みたいに突っ走っちゃったりしてるんじゃないかな。おっちょこちょいなところも継続してそうだし。そういえば昔、間違って悟に水をかけられたりしてたよね。あれは面白かったなぁ。他にも硝子にドッキリを仕掛けようとして逆に仕掛けられたりとかね。それから、それから...」
まだまだ思い浮かぶことは数え切れないほどあるのに、何故か口は閉じてしまった。相槌を打たれることもなく、一人寂しく思い出を零しているだけなのに、誰に聞かれてるわけでもないのに。
どうしてこんなにも感情が溢れ出そうになるのか。
その答えは、伝い始めた涙さえも知らない。
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seksi - 泣きすぎちゃった!! (8月8日 16時) (レス) @page12 id: 938f11a994 (このIDを非表示/違反報告)
あめ玉 - 泣ける!ガチですごい! (2022年3月27日 3時) (レス) @page12 id: 09aca0ac89 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫さん - 涙が止まりませんとても心が温まりました!ありがとうございます! (2022年2月27日 1時) (レス) @page12 id: cbcafde3fb (このIDを非表示/違反報告)
ぱすた(プロフ) - 泣いたヽ(;▽;)ノ涙が止まらん (2022年2月5日 19時) (レス) @page12 id: 287f0ed476 (このIDを非表示/違反報告)
もうた(プロフ) - 泣きながら読みました笑死ネタはあまり読まないんですけどこのお話は個人的にめっちゃ好きです (2022年2月5日 8時) (レス) @page12 id: 3c458b34df (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2022年2月4日 22時