i 騙すように【HUNTER×HUNTER】 (ページ8)

今日:1 hit、昨日:5 hit、合計:18,073 hit

6.十字ページ8

｢じゃあねクロロ、今日は話聞いてくれてありがとう。楽しかった！また今度この本読み終わったら連絡するね。｣

そういって帰り支度をしているとクロロからちょいちょいと近くに来るように手招きされた

近付くとクロロはポケットから箱を取り出し顔に手を近づける

｢思った通りだ、よく似合ってる。｣

どうぞ。と手鏡を渡され鏡を覗くと、

｢イヤリング…？｣

｢そう、こないだ言っただろう？大仕事が済んだって。その時にこれも貰ってきたんだ。｣

耳に着いたイヤリングは十字の形をしたシンプルな物だがどこか目につく高貴なデザインで、耳にある確かな重さが彼を思い出させるものだった。

｢出会ってそろそろ一年経つだろう。記念になにか贈りたくてね、俺とおそろいだ。｣

そう笑うクロロと対照的にAは表情を変えずにただ手鏡を覗き込んでいた

｢A？もしかして気に入らなかった？｣

あまりの動かなさに少し心配そうなクロロに気付きようやくハッとする

｢ううん、そんなことない！本当に嬉しいありがとう。ただ、｣

｢こんな贈り物を友人に貰うなんて初めてで、そのなんて言うか、どう喜んでいいのかわからなかったんだ。｣

こんなことを言うのもおかしいのかも知れないが何を隠そう彼が生まれて初めての友人であり、家族以外に贈り物を貰うということを経験したことがないのだ。

思わず照れ笑いする私につられてクロロも子供らしく笑う

｢次会う時にそれ付けてきてよ、それだけで俺は嬉しい。｣

｢当たり前だよ。今度会う時は家出じゃなく普通のお出かけとして会いに行くから。｣

｢ああ、また近いうちに。｣

耳元に揺れるイヤリングに触れながら帰路に着く。
この時の私はクロロに話を聞いてもらえて普通の女の子として生きていけるような気がしていた。

これがクロロと会うための最後の家出だった。