依存相手に選ばれました.8【紫】

395.事件前後を短編集風に ページ45

事件前の柊side

引きこもりになって早8年ほどが過ぎた

弟は大学入学と共に家を出た

俺だけが学生の頃から成長できてないことへ焦りを感じ始めていた


毎日、決まった時間に買い物に行くお母さん

今日もその時間を見計らって部屋から出たが、ふと財布がリビングの机に置いてあるのに気づいた

連絡しようにも家には固定電話がない

俺自身、連絡しなきゃならないようなことも無いためこの時代に携帯を持っていない


柊「…なきゃ…困る、よな」


普段ならこんな気にならないけど、その日はなんとなく外に出てみようって気になって、お母さんがいつも行くスーパーに足を運んだ

お母さんを探してる間に見てしまったのは、彼女が…Aさんが男性にぶつかられてカゴを落としてるところだった

そばにいた俺の足元に彼女のカゴから転がった果物…

人と関わるのは怖い…だけど、足元にあるものを無視するほど非情な人間でもない俺は恐る恐る彼女に声をかけた


「ありがとうございます」


って俺に笑いかけてくれた彼女に、一瞬で心を奪われてしまった

ありがとうなんて言われたの、いつぶりだろう…


連れの男性がそばに来たので、俺はその場を離れた


母「しゅ、う？」

柊「お母さん…これ、財布」

母「届けてくれたの！？
忘れたのに気づいて取りに帰ろうと思ってたのよ
スレ違いにならなくて良かったわ」


そう言って、俺から財布を受け取ったお母さんは嬉しそうな表情を浮かべた

引きこもりの息子が外に出たのが嬉しいのだろう

でも、お母さんの口から『ありがとう』って一言は出てこなかった


翌日、また会いたいって衝動に駆られて同じ時間に買い物に行った

だけど、彼女には会えなくてそれが俺の会いたいって衝動をさらに掻き立てた


その次の日から、Aちゃんに会えるまで一日スーパーに居るようになった

入口の見えるイートインコーナーが俺の定位置になった


彼女はよく男性と買い物に来る

そんな彼女は俺を見つけて話し掛けてくれた


その笑顔が愛おしくて、だけど結婚してることを知って、それなら見守るだけでいい…と彼女がスーパーにいる間だけの束の間の逢瀬を重ねた


そんな時に社長をしてる旦那さんがAさんを使って枕営業をしてるって噂を耳にした


その噂を教えてくれた人は、名乗りこそしなかったが俺の恋心を否定せずに聞いてくれた


？「あなたは騎士なんですね
自分を犠牲にしても彼女を守るなんて素敵ですね」


って笑いかけてくれた

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