14 ページ14
.
しばらくして、ビクッと動いて瞬間的に彼が手を引っ込めた。
「ごめん。擽ったかったよね？」
この微妙な指圧では気持ちが悪かったはずだと思い、再び謝った。
ううん、と彼は首を横に振る。
「じゃあ今度はAちゃんの右手貸して？」
「私の？」
「早く治るようにおまじないかけてあげるね」
はちみつの香りがするハンドクリームを彼が手で温め、
それを私の右手にゆっくり馴染むように伸ばす。
指と指の間のツボや、親指の付け根のツボも、じわーっと適切な圧で押してくれる。
血行がどんどん良くなって、冷たかった手がポカポカしてきた。
時々、「早く良くなぁれ」って呟くのが可愛らしくて、私はゆるむ口元を左手で覆い隠した。
「何？どしたの」
「なんかちょっと……どきどきしちゃった」
「かわいいね」
どうしてか、手先だけじゃなく、身体全体も血行が良くなってる気がする。
温かいを通り越して、暑いくらい。
「はい、おわり」
「ありがとう。三宅くんのおかげで、早く治りそうだよ」
笑うと、いつも笑い返してくれる彼が今は真顔。
「ねぇ、俺はお隣さんにしかなれないの？」
「え？」
「バンドマンのBだから？」
「あっ……その節は本当にごめんなさい」
付き合っちゃいけない3Bの話。
この言葉は、彼を深く傷付けてしまったはずだ。
何度謝っても謝り足りないと思う。
「んーん。俺のこと、ちょっとは意識してほしいなって」
「意識……？」
「だって、全然意識してもらえてる感じしないんだもん」
"だもん"という口調と、尖らせた唇はやはり幼く見えるけれど、彼は真剣そのものだった。
「学生アルバイトにしか見えないかも知んないけど、それなりにオトナなんだよ？」
勝手に学生だと思い込んでいた私には、ちょっと耳が痛い。
「男の部屋に女の子が1人で来る意味とか、考えたことある？その逆の時もそうだよ」
彼は魅力的な人。
しかし、お隣さんである彼をいち男性として意識したことは、今まで無かったのかもしれない。
それは、人の懐に入る上手さが彼はピカイチだから、それによってこちらが全く警戒心を抱かなかったからと言える。
決して他意はない。
けれど、それは彼のプライドを傷つけていたのかも知れなかった。
「ねぇ、Aちゃん」
顔がズンっと近づいてくる。
厚めの下唇が、ゆっくり動いた。
「俺にもチャンスが欲しいんだけど……ダメ？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 50人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ﾖ-ﾘﾝ(プロフ) - 西鶴さん» 西鶴さん、いつもありがとうございます。同じくです。ずっと音楽や映像を見て浸っています。 (2022年3月17日 23時) (
レス) id: 3d151d95ac (このIDを非表示/違反報告)
西鶴(プロフ) - （元 藍琉）私も未だに未練タラタラでYou○ube ○usicで音楽聴いて、You○ubeで動画見て、CDを流しての繰り返しです。 (2022年3月12日 14時) (レス) @page18 id: 6dde35b37e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ﾖｰﾘﾝ | 作成日時：2022年2月22日 23時
