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松倉さんに促されるまま洗面所まで来ると"ごゆっくり"とドアを閉められた。
あまりにも展開が急すぎて動揺しつつ、洗面所で鏡を見ると、メイクがボロボロの私が写る。
……そりゃあ、こんな顔してたら気遣いたくなくても遣うかも。
今度ちゃんとお礼をしなきゃ、と色々考えているとふと目に入ったモノ。
『あの……』
「ん、どした?お風呂入るのに何か必要なものあった?」
そのモノに不信感を抱いて、洗面所からリビングに戻ると、松倉さんはコーヒーを飲んでいた。
『私やっぱり迷惑かけられないので帰ります』
「え?」
『彼女さんいるんですよね?』
「ん?なんで?」
洗面所には、ふたつ並んだ歯ブラシ
スキンケア用品の数々があった。
『だって、洗面所にあるモノとか…それ、とか…』
ソファーに座っている松倉さんの横に置いてある、私に貸してくれようとしているであろう女性物の可愛らしい部屋着。
……こんなの、早く帰らなきゃ。
「あー、そういうこと?」
何故かニコニコ笑っている松倉さんは、近くに来て私の顔をのぞき込む。
「大丈夫だよ。これとか、洗面所のものとか、全部妹の物だから」
『妹さん……?』
「そ。泊まりに来た時に、また持ってくるの面倒くさいからって全部置いてったんだよ。」
"そういえばAちゃんって俺の妹と同い年か"
と言ってきた松倉さんは、気が抜けたようにふにゃっと笑う。
「だから、彼女とかじゃないから気にしないで使って?」
『でも、同棲してなくても、松倉さんみたいな優しい人なら彼女とか』
「いないよ。喫茶店開業する前に別れたから」
『……なんか、すいません』
「ごめんね、気遣わせちゃって!だから気にせずに好きなもの好きなだけ使ってください」
『ありがとうございます』
とりあえずよかった、のかな?
お風呂を借りて、寝る時は"俺はソファーで寝るから"とベッドを譲ってくれてた。
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作者名:愛生 | 作成日時:2022年9月25日 18時