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いつもより少し早い時間にスマホから目覚ましが鳴る。
起きた環境はいつもと違って、かすかにコーヒーの香りがする。
目を擦りながらリビングに行くと、エプロンをしている松倉さん。
「あ、起きた。おはようございます」
『おはようございます……』
「眠い？」
『ん、ちょっとだけ』
ちゃんと目を開けると、松倉さんは眼鏡をかけていなくて、いつもより幼く見えた。
なんとなく、見慣れなくて緊張する。
ジーッと松倉さんを見つめていると、優しく微笑んで顔を覗き込んできた。
「Aちゃんもコーヒー飲む？」
『……え』
「ん？」
松倉さんが淹れるコーヒーなら、お金払わなきゃ。
喫茶店のマスターだし、今だって私が淹れるようなインスタントのコーヒーじゃない。
「なーにしてんの？」
カバンからお財布を出して、チャックを開ける。
『あの、おいくらですか？』
「え？」
『コーヒー、おいくらですか？』
「ふふっ、何言ってんの？いらないよそんなの」
『だって、松倉さんが淹れてくださるコーヒーなんて商品じゃないですか』
「いいの。家なんだからそんなの出さなくて」
『でも……』
「そんなことより、まだ淹れるのに時間かかるから、その間にお仕事行く準備してて？」
"はい、よーいどん！"と言われて、反射的に洗面所に向かうと、後ろから松倉さんがケタケタ笑う声が聞こえた。
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『本当にありがとうございました。もうそろそろ行きますね』
「仕事、こんなに行くの早いの？」
『流石に昨日と同じ服じゃ会社に行けないので、一度家に帰ります』
「……帰って大丈夫なの？」
『遅かれ早かれ、いつかは帰らなきゃいけないので』
「何があったかはわからないけど、気をつけてね」
『はい。じゃあいってきます』
「いってらっしゃい」
まだコーヒーの香りが漂う松倉さんのおうちを出て、家に向かった。
家の前、玄関のドアに鍵をさす。
海人は私よりも家を出るのが遅いから、いつもこの時間はまだ寝てる。
大丈夫、きっと。
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作者名：愛生
| 作成日時：2022年9月25日 18時
