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『松倉さん?』
「……ケーキ、持ってくるね」
キッチンに向かった松倉さんが持ってきたのは、イチゴがのったチョコレートタルトだった。
『これ、もしかして作ったんですか?』
「そう。お店でガトーショコラ食べてたから、チョコケーキ好きかなって思って」
『大好きです!ありがとうございます』
テーブルに置いて、数字の蝋燭を立ててくれる。
ライターで火をつけて私を見る。
「俺ハッピーバースデー歌う?」
『ふふっ、 ふたりだとなんか恥ずかしいです』
「じゃあ蝋燭の火だけ吹き消してもらおっかな。電気消すね」
部屋の電気が消えて、蝋燭の灯りで松倉さんの顔が照らされる。
「なにかお願い事は?」
『え?』
「ケーキの蝋燭を吹き消すのって、お願い事を叶えてもらうためなんだよ」
『そうなんですか?知らなかったです』
「ほら、早くしないと蝋がケーキに垂れちゃうよ」
『じゃあ……1年、幸せに暮らしたい、です』
ふぅーっと息を吹きかけて火を消すと、部屋が真っ暗になった。
「いい願い事。電気つけるから待っててね」
電気をつけて戻ってくると、今度はケーキを切り分けてくれた。
『色々と用意していただいて本当にありがとうございます』
「俺が好きでやってるだけだからいいの。それよりさ」
『はい』
「幸せに暮らすためのお手伝い、俺にもさせてね」
『もう沢山していただいています』
「じゃあもっともっとするから」
"はい、どうぞ"と渡してくれたタルト。
いただきますと呟いて一口食べると、チョコがすぐに溶ける。
「どう、美味しい?」
『凄く美味しいです!生チョコみたい』
「そう、生チョコのタルトなんだよね。初めて作ったからどうかなって思ってたんだけど」
『喫茶店で出してほしいくらい美味しいです』
「じゃあ如恵留の料理と一緒にメニュー化しちゃおうかな」
『是非お待ちしてます』
「うん、ちょっと経費とかも含めてお店で出せるか考えてみるね」
"コーヒー飲むでしょ?淹れるね"
と席を立った松倉さんを横目に、もう一口タルトを食べる。
……でも、メニュー化してみんなが食べることになったら少し寂しいかも。
この味は私だけが知っていたい気がする。
ただの常連が何言ってるんだって思われちゃうから言えないけどね。
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作者名:愛生 | 作成日時:2022年9月25日 18時