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「……A?」
ゆっくりドアを開けると、玄関にしゃがみこんでいる海人が顔を上げた。
『っ、なんで』
「よかった、帰ってきた…!」
抱きしめてこようとする海人の腕をすり抜けて、リビングに向かう。
「まってよ、避けないでって」
『昨日連絡して来なかったくせに』
「それはそうだけど、いつもは」
『 いつもは、なに?』
「いつもはすぐ帰ってきてくれたから、また帰ってくると思ってずっとここで待ってた」
確かに、喧嘩して何度か家を出たことがある私。
でも前に家に出たのは勢いで、ちゃんと仲直りしたくて帰ってきてた。
『ねぇ、海人』
「なに?」
『待ってるだけじゃ、いつか離れてくよ』
黙り込んだ海人を横目に、押し入れからキャリーケースを取り出して必要な服、お気に入りのものをひたすら詰め込む。
『私、帰ってきた訳じゃなくて荷物を取りに来たの』
「は?」
『だからもう本当にお別れ』
「ねぇ、なんで別れるとか勝手にひとりで決めんの?」
『だって、もう何言っても海人変わらないじゃん』
「変わるって!」
『変わらないよ。もう帰ってこないから、持ちきれない服とか色々邪魔なら捨ててね』
「やだよ、なんで」
キャリーケースに収まりきらなかった必要な荷物は、トートバッグにまとめて入れて、如何にも家なき子のような状態。
……まぁ、これから本当に家なき子になっちゃうけど。
カバンから鍵を取り出して、海人に手渡す。
『じゃあね海人』
「まって!」
『今までありがとう。色々ごめんね』
あーあ……
本当に終わっちゃった。
彼氏も、家も失っちゃった。
ガラガラとキャリーケースを引きずって、大荷物で歩き出す。
"まって!"って言ってたくせに、海人は変わらず追いかけてこない。
……そういうことじゃん、ね。
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作者名:愛生 | 作成日時:2022年9月25日 18時