16 ページ16
.
「賄いだから、他のお客さんには内緒ね」
『私、いただいてもいいんですか？』
「是非！如恵留が出勤する日の俺の楽しみなの。食べてみてよ、めっちゃ美味しいから」
スプーンでよそってくれている松倉さんを横目にカウンターを見ると、外人みたいな顔立ちの店員さんが優しく笑う。
如恵留さんって言うんだ。
その手前のカウンター席に座っている常連さんは、少し肩を震わせて笑っているように見えた。
いただきますと呟くと、松倉さんは頬杖をついて"どうぞ召し上がれ"と自慢げに笑った。
「どう？美味いっしょ？」
『美味しいです』
「ね！俺も食べよっと」
『メニューに出さないんですか？』
「出したいんだけどね、従業員足りなくて回らなくなっちゃうから難しくて」
『そんなの勿体ない』
大きく1口頬張った松倉さんは頬を膨らませたまま私を見る。
「え、怒ってる？」
『だって出さないと勿体ないくらい美味しいから』
「また食べにおいでよ。Aちゃんになら如恵留に出してもらえるように頼んでおくよ」
『それはなんか、抜け駆けみたいで腑に落ちないというか』
「じゃあ俺が賄い食べる時に一緒に、ね？」
『……それなら』
「よし、決まりね。次から如恵留に量増やしてもらおうかな」
食べられることになって嬉しい私よりももっと嬉しそうで、年上の男性なのになんだか可愛く思えた。
『あの、改めて昨日はありがとうございました』
「いいの、気にしないで。今日は大丈夫？」
『帰る家がなくなっちゃったので、ホテル取りました』
「そっか。ホテルこの辺？」
『はい。通り道なのでここにお邪魔しました』
「ん、わざわざありがとうね」
彼氏と別れて、同期とも距離感がつかめなくなった今、心を開いて話せるのが松倉さんしかいなくて
家よりも落ち着く場所で、そんな人と話していたらやっと気持ちが落ち着いた気がする。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 312人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：愛生
| 作成日時：2022年9月25日 18時
