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「いらっしゃいま、……あ、Aちゃん」
カウンターにいた松倉さんが、入口まで迎え入れてくれる。
店内には、松倉さんと、外人みたいな顔立ちの店員さん、カウンター席に昨日チョコレートをくれた常連さんがいた。
『こんばんは』
「こんばんは。いらっしゃい」
"あちゃー、びちゃびちゃだ"と呟いて、奥からタオルを2枚持って来てくれた。
1枚は私にそのまま手渡し、もう1枚は荷物をわざわざ拭いてくれた。
『あの、一言だけお礼がしたくてお邪魔しました』
「荷物重いでしょ。雨降ってるしちょっと休んでいきなよ」
『でも……』
「夜ご飯、まだなんでしょ？」
『それはそうですけど』
「じゃあ一緒にご飯食べようよ。俺今日なかなか休憩取れなくてこれからなの」
『でも、』
「……嫌？」
またあの子犬みたいに甘える顔。
『嫌、では、ない……です』
「ふふっ、じゃあ決まり。一番奥座って待ってて？大きい荷物は預かりますね」
本当にオネダリ上手な人。
そう思ったのも束の間、松倉さんは私の手から通勤カバン以外を取って軽々と持ち上げて、お店の奥へ向かった。
「おまたせ」
一番奥に座って待っていると、昨日家で見た時みたいに、メガネを外した松倉さんが来た。
「なに？なんかついてる？」
『あ、いや、メガネ……』
「メガネ？あー、あれ伊達メガネなんだよね」
"なんかメガネしてた方がマスターっぽくない？"
と無邪気に笑う松倉さんは、メガネをかけた時よりも子供っぽい。
『ふふっ、そうですね』
「……うん、やっぱりそれがいいよ」
『え？』
「Aちゃん、笑ってた方がいい」
『私、そんなに笑ってなかったですか？』
「だいぶ深刻そうな顔してたよ。まぁ事態は本当に深刻だろうけど」
カウンターから、外人みたいな顔立ちの店員さんが松倉さんを呼ぶ。
喫茶店には、チーズがこんがり焼けた匂いが漂う。
"ちょっとまっててね"と言って席を離れた松倉さん。
カウンターから戻ってくると松倉さんが持ったトレーの上にグラタン。
それと、グラタン皿に入った野菜のグリルと、お皿2枚とスプーンとフォークが2つずつ。
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作者名：愛生
| 作成日時：2022年9月25日 18時
