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引き戸を開くと3人の和気藹々とした声が耳に入った。
「ミツ、いらっしゃい」
ここは横尾さんの店『夕月夜食堂』。
ほぼ同時期にこちらにやってきた横尾さんの店は頻繁に利用させてもらってる。
「隣、座るぞ」
「おう」
俺が座ったのは藤ヶ谷の隣。
藤ヶ谷はなぜか店でバッタリ会うことが多い。
「今日は私のメニューだけどいい？」
「もちろん」
彼女は荻野恵麻。
俺の小中の同級生だったりする。
つまりはAも同級生。
あと横尾さんの彼女。
ここは今二人で成り立っている。
「……じゃあオムライス」
「はい」
荻野が調理している間、横尾さんがこちらにやって来る。
「ラインはブロックされたまんま？」
「まんま。どうしたものか」
「仕事はどう？」
「ネットの方は俺もできるけど、Aの方が絶対上手いから今後支障が出そう」
仕事面で困るのはここだけだ。
だけどそれ以外の面は……心にぽっかり穴が開いている。
傍にいないことで気付く思いがある、近くにいないことで気付かされる感情がある。
これはもう認めざるを得ない。
溜め息が漏れる。
「何で今まで付き合ってなかったの？」
隣の藤ヶ谷がカレーを食べながら訊いてくる。
「何でだろ。ずっと一緒にいるもんだと思ってたから恋愛関係にならなかったからか」
でもあいつはどうだったんだろう。
もしかしたらお見合いすんなよって言って欲しかったのだろうか。
Aは優しいから俺を困らせたくなくて、ずっと言わなかったのだろうか。
俺はずっと知らぬ間にAを傷つけていたのか。
しでかしたことの大きさはきっとでかい。
「本当に今まで恋愛感情抱いたことなし？」
「藤ヶ谷、それ俺モデルの奴に使うの？」
「当然」
藤ヶ谷の小説には俺たちをモデルにしたキャラクターが出てくる。
店の設定とかは違うけど人物設定は俺たちと変わらないので藤ヶ谷の本を読んだ人からこの人物ですよね？なんて訊かれる。
ということは当然今の話題も小説になってしまうわけだ。
俺の心情にピタリと当てはめて。
「はい、オムライスです」
荻野が持ってきてくれる。
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作者名：ユタカ２ | 作成日時：2021年11月23日 14時
