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Aを大学まで送った後お屋敷に帰ると奥様に呼び出された。
何だろうと思い奥様の部屋へ行く。
「失礼いたします」
「渉さん、こちらにいらっしゃって。座って」
「ではお言葉に甘えて」
奥様の前に着席すると見覚えのあるものがテーブルに出される。
「渉さん。今年30でしょ。主人も横尾のご両親も心配なさってたわよ。渉さんに良い縁談があるのよ」
俺はきたかと思った。
俺には兄が2人いるのだが、兄2人とも奥様が持ってきた縁談で結婚し、家庭を築いている。
お嫁さん候補になるのは渡辺家がやっている企業の女性社員や重役の娘さん。
奥様の手前お見合い写真を見る。
だけど俺の中には、ね。
「渉さんにはAを教育してもらったから良いお相手を見つけたいわ。このお嬢さんなんていかがかしら。まさに才色兼備よねえ」
「はあ……」
確かに写真は綺麗なお嬢さん方が多いが、やっぱり俺にはAが一番だ。
「渉さんお付き合いされてる方はいるの？」
「……います」
あなたのお嬢様ですとは言えないけれど。
「ご結婚は考えているの？」
「まだそこまでは……」
一緒にいたいとは思ってる。
だけど問題はあるわけで。
「まあひとまずは持ち帰って考えてみて」
「……かしこまりました」
一旦お見合い写真は持ち帰ることになってしまった。
する気なんて毛頭ないのに。
俺が好きなのはAなんだから。
大学から出た彼女を迎えた後、俺はその話をした。
「出たよ。お母さんの使用人の結婚相手探し。暇人だから感謝されたいんだよ。渉のお兄さんたちはそれで結婚したんだよね」
「そう」
「……渉は結婚するの？」
「するわけねえじゃん。Aがいるのに」
「ありがとう」
拗ねたかと思ったら俺の言葉で可愛く笑う。
そんなところが本当に愛おしい。
「じゃあお母さんが持ってきたお見合いどうするの？」
「結婚する気はないって言って、なあなあにするしかないだろう。そしたら別の使用人に興味が移るよ」
「そうだね」
この時俺は奥様の持ってきたお見合いを軽く考えていた。
執事と令嬢としてでも一緒にいられると思ってた。
俺のいる世界は封建的な世界だということは失念していた―――。
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作者名：ユタカ２ x他1人 | 作成日時：2021年9月11日 17時
