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「A、昔誘拐されそうになったんだよ」
「はい?」
まさに衝撃の告白といった感じで私はポカンとなってしまった。
「私全然覚えてない」
「怖い思いをしただろうから脳がその記憶を仕舞っちゃったんだよ。でもその方が良いよね」
「……私の『幸せの街』の記憶が薄いのはそのせい?」
「……だね」
「私が少し男の人が怖いのもそのせい」
「……うん」
「…………」
「…………」
お互い状況を飲み込むために少し黙るしかなかった。
「……Aが小3の時、俺たちは家の言いつけを守って施設に通っていた。Aはいつも通り俺の後ろにくっついていた。だけどとある男がAに声をかけ、俺は別の施設の人が呼んでいると言われ引き離された」
「その男が今回の被害者?」
「そう。俺は杉山の顔と名前を忘れたことはないよ。……で、言われた場所に行ったけど誰もいなくておや?と思った。……俺さ、Aがピンチになると伝わっちゃうみたいで、その時背中がゾクッとなって寒気が止まらなかった」
「えっ?そうなの?」
「ほら。前の職場でAが大変なときに俺その日に病院に駆け付けたでしょ?あれはAが今危機だと感じて天然のGPSを使って来たんだよ」
「そうだったんだ」
私が前職の上層部に囲まれて過呼吸を起こして病院に運ばれた晩に俊くんは来てくれたんだった。
なるほど、じゃあ私は俊くんがピンチになったら分かるのかな。
「話を戻すね。……俺がAの時に駆け付けるとAが連れていかれないように必死に抵抗してて、俺はすぐ施設の大人を見つけてこの状況を必死に伝えて俺はAの前に立って俺があいつに抵抗した」
「……あっ」
うっすらだけどそのシーンに覚えがあった。
まともに呼吸が出来ないくらい泣いていた私の前に現れた俊くんの背中。
これはそのシーンだったのかも。
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作者名:ユタカ2 | 作成日時:2023年8月27日 10時