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「前にも言ったように吉田は……」
「伊坂さん、A」
ドアが開く音がして振り向いたら千ちゃんがいた。
「千賀さん……」
千ちゃんは今の彼女を見て何か感じないだろうかと期待する。
「伊坂さん。俺たちはあなたを否定するつもりは全然ないから、自信を持って全部言って」
なんとなくだけど伊坂さんは誰かしらに否定され続ける人生だったのかなと考える。
どこかで肯定されないと、認められないと辛いよね。
私たちの力もそうだ。
認めてくれる人たちがいるから思う存分使える。
「本当ですか?」
「ええ。伊坂さんは機密情報を持ち出してまで協力してくれてるんだから、俺たちが貴女を信じないでどうするんですか」
「…………」
今この時間私はお邪魔虫だとは思うんだけど、話的にしょうがない。
「私、根が正直ものなので一応はTPOも考えてはいますけど、何でも言っちゃう性質なんですよ。でも腹を割って思ってることを全部言って解決することってあると思うんです」
「今回もA、バシバシ言ってるよね」
「だって気になっちゃって。本当に実在してるのかとさえ思うほどだから」
「実在はしてるでしょ、多分。ただ大きく盛り過ぎてる可能性はあるけど」
「……吉田は」
伊坂さんが口を開いたので千ちゃんと一緒に黙る。
「……私ずっと吉田が怖いんです」
「怖い?」
「確かに吉田は人当たりが良いです。でも目が笑ってない気がして。私に対しても物腰は柔らかいですけど、どこか高圧的で。彼の頼みを断ったら自分でも出来る仕事まで押し付けてくるんです」
「それはなかなか……。他にも同様のことを言ってる人いないんですか?」
「私が言っても皆笑って嘘だとか考えすぎだって言うんです。……私の感覚は間違っているのでしょうか」
私は千ちゃんと顔を見合わせる。
伊坂さんが私たちと同じかは分からない。
だけど周りとは違う自分に苦しんでるとしたら手を差し伸べるべきだろう。
千ちゃんいきなさい。
「伊坂さん」
千ちゃんには心の声は聞こえないはずなのに千ちゃんは優しげに彼女を呼んだ。
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作者名:ユタカ2 | 作成日時:2023年8月27日 10時