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「……彼氏にフラれた」
「そう」
「他に好きな人がいるんだって。というか既に別の人と付き合っているのかも。私と一緒にいると窮屈なんだって」
「…………」
「私仕事が好き」
「知ってる」
「だけど私生活も充実させたくて……。夢見てるのは私だけだったのかな」
「…………」
「…………」
ついに涙まで零れた。
すると横尾の手が私の頭の上に乗った。
「泣きたいときは思う存分泣けばいい」
「うん……」
横尾の手はじわじわと温かくて涙がポロポロと零れた。
泣き顔を見せるのは初めてだった。
ようやく涙も落ち着いてきて今更ながらに顔を伏せた。
横尾といえど泣き顔はあまり見せたくない。
「何で今更隠すのさ」
「泣き顔はブスだし」
「俺相手にそんな気遣うなよ。それに原田は泣き顔も美人だったと思うけど」
「……えっ」
今この人何て言った?
私のこと美人だって?
「何、鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」
「今、美人って……」
「ずっと思ってるよ、原田は美人だって」
「…………」
酔いが回ってしまって率直に照れてしまった。
今まで仕事のことで褒められたことはあっても私自身のことでそう言ってくるのは初めてだったから。
ふと私は横尾って付き合ってる人がいるんだろうか、私のことをどう思ってるのだろうかと思ってしまった。
何だかんだで近くにいるのって彼だなと思ってしまった。
この気持ちは、いやいや私は失恋したばっかりだし、なんて思考を動かしていたら横尾は帰るかと伝票を持って立ち上がった。
こういうところもいつもさりげないと私は思った。
*
私たちが一緒にご飯を食べた後は駅で別れるのがいつものことだったのに。
「今日は家まで送るよ」
「何で」
「いいから送らせろって」
「……分かった」
いつになく強引だったから私はその勢いに負けてしまった。
そして本当に横尾は私の家まで送ってくれた。
「じゃあ、また月曜日に。今日はありがとう」
「あのさ」
そのまま別れの挨拶をするかと思ったのに、横尾は真剣な目で私を見た。
「失恋したばっかの原田に付け入るようで気が引けるけど、でも今言わないと駄目な気がするから言う。……俺は原田が好き」
「いつから?」
突然の告白にこんな返しをしてしまう私はきっと可愛くない。
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作者名:ユタカ2 | 作成日時:2023年7月26日 17時