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金曜日になった。
今夜のために仕事をちゃっちゃとして、お手洗い休憩をしている時だった。
「夏目さん原田さんと別れたんだって」
ちょうど個室から出ようと思ったときに彼と私の名前が聞こえてしまった。
「えっ付き合ってたの?」
「知らなかった?」
「だって原田さんそんな感じしてないから」
これじゃ出るに出られなくて息を潜めてるしかなかった。
「えっ?というか夏目さんって佳奈ちゃんと付き合ってるんじゃなかったっけ?」
「だよね」
「じゃあ二股?」
「で、原田さんを捨てた?」
佳奈ちゃんというのは確か今彼の部署にいる相沢さん……。
そんな噂私は知らなかった。
―――知子は向上心があって素晴らしいと思うよ。でも一緒にいると窮屈というかさ。
彼に言われたことを急に思い出した。
誰かを批判するときは別の誰かと比較することが多いから、きっと彼女は彼にとって安らぎをくれる人物なのだろう。
「原田さん美人だけど仕事面で厳しいからなあ」
「間違ったことすると注意するのはいいんだけど言い方きつかったりするもんね」
「それじゃあ夏目さんも休まらないかもね」
「このまま夏目さんと佳奈ちゃんが結婚するかもね」
そんなことを言いながら4人組は去っていった。
私はしばらくして個室から出て、自分の席に戻った。
「遅いじゃん」
隣の男から早速こう言われた。
「私の噂話されてて」
「それじゃ出るに出られないな」
普段陰口なんて何とも思わないけど、今はメンタルがやられてるから少しくるものがある。
「周りの声なんて気にするなよ。そいつらは原田が羨ましいだけだから」
「うん」
そういえば横尾って私の欲しい言葉をくれるよなとまた少し思った。
*
仕事が終わり、横尾とご飯を食べに行く。
場所はいつも私と彼のそれぞれの最寄り駅の間の駅周辺の店。
今日は海鮮がメインの居酒屋だった。
「お疲れ」
「お疲れ」
そこで必ず乾杯をするのが当たり前になっていた。
そこからしばらくご飯やお酒の話しかしない。
横尾とは他愛のない話ができるから良い。
そうして心が解れていって私はついに零した。
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作者名:ユタカ2 | 作成日時:2023年7月26日 17時