私の隣の席の男は〈y〉 ページ46
・
「原田」
そう声をかけながら横尾は私の隣の席に座った。
「何」
「俺これから外出するから何か言伝あったらよろしく」
「はいはい」
「はいは一回」
「はーい」
「ったくお前は。じゃあいってくる」
「いってら」
横尾はそれからパッと準備をして外出していった。
この男は横尾渉。
私の同期で今は同じ部署で席が隣同士だ。
互いを名字で呼び合う対等な関係だと私は思っている。
横尾との出会いは研修の時。
忌憚のない意見を言う人だなと思った。
向こうも私のことをそう思っていたみたいで、帰りの電車で声をかけられて交流を持つようになった。
最初は別々の部署で働いてたけど1年ほど前に同じ部署になり席が隣同士になって切磋琢磨してる。
たまに付き合ってないのかと訊かれることがあるけどただの同僚。
たまに仕事の後ご飯に行くことはあるけど、プライベートのことはあまり知らない。
それに私付き合ってる人がいるしね。
そんなことを思っていたらラインの通知が来た。
その彼からだ。
明日の晩空いてるかと訊かれたので空いてるよと返した。
彼氏とは前の部署の先輩だった人で
2年半ぐらい付き合っている。
私だってアラサーと呼ばれる年。
仕事を頑張りたいけど私生活も充実させたい年頃だ。
そろそろそんな話があったっていいんじゃないかなと思いながら私は仕事を進めた。
この時私は明日の晩が楽しみで仕方がなかった。
*
「ごめん、別れて欲しい」
彼と会って開口一番がこれだった。
何でも他に好きな人が出来たらしい。
他にも色々言われた気がしたがあまり覚えていない。
次の日会社には行けたがしばらくパソコンの前で動けなかった。
「おはよう」
「……おはよう」
だから横尾へのレスポンスが少し遅れた。
それに気付かない彼じゃない。
「どうしたよ」
「……うん」
「いつもの威勢の良い原田はどこいったよ」
「そんな日もあるよ」
「でも仕事はしっかりしてくれよ。お前がそんなだと調子狂う」
「うん」
横尾は私の隣の席に座る。
それ以上は突っ込まない彼の姿勢が少しありがたかった。
私は机のファイルを開いた。
そんな私を横尾は横目で見て。
「金曜の夜空いてる?」
「空いてる」
「じゃあ俺で予約しといて」
「うん」
そういえば私と横尾がご飯に行くときって私が何かしら上手くいってない時だなとこの時少し思った。
・
57人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ユタカ2 | 作成日時:2023年7月26日 17時