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次週。
予想通り仕事が続いてまた今日しか来られなかった。
大将の料理が食べたいと思いながら引き戸を開ける。
「いらっしゃいませ、太ちゃん」
「こんばんは。……あれ?」
和田さんの姿にすぐに目がいく。
だけど様子がおかしい。
「藤ヶ谷さん、こんばんはー」
明らかに酔ってる口調だった。
いつも節度ある飲み方をしてるイメージだったから驚いた。
「和田さん、こんばんは。何かありました?」
「何もありませんよ」
「Aちゃん今日ピッチが早いのよ。太ちゃんはどうする?」
「大将のおすすめで」
すぐにでも彼女を帰した方がとも思うが酔いが次第に冷めるかもしれないし、一緒にいたいし大将の料理は食べたいし……で俺は彼女の隣に座った。
その後は俺は大将の料理と酒を楽しんだ。
隣で和田さんは主にビールを飲んでいた。
「大将ごちそうさまでした」
お勘定を終え、和田さんを見る。
彼女はまだ帰らないのだろうか。
「太ちゃんさすがに今日はAちゃんを家まで送った方がいいんじゃねえか?」
「うん。そうだね」
さすがに酔っぱらった女性を置いていくほど冷たい男ではない。
「和田さん帰ろう」
「……はい」
和田さんは大人しく俺についてきた。
ちゃんとお勘定もしたから酩酊状態ではないなと感じた。
「こっちです……」
和田さんの案内の元、俺は彼女を家まで送る。
足取りは少し怪しいから心配だ。
「和田さん何かありました?」
夜の街の中、二人きりだから、俺はまた訊いてみる。
「…………」
すると和田さんの足が止まるから俺も止まる。
「何か悩んでますか?俺と和田さんはあの店で会うだけの関係性ですけど、だからこそ言えることもあるかもだし……」
これでも俺は勇気を出した方だと思う。
やっぱり想ってるだけじゃ駄目で行動に移さなきゃ何も進展しないと思ったから。
「……藤ヶ谷さん、駄目ですよ」
「何がですか?」
「好きな人がいるんですよね?だったら私に優しくしちゃ駄目です」
「…………」
それって。
でも俺の都合の良い解釈かもしれない。
でもここは慎重にいってる場合じゃない。
ここで決めなきゃ男じゃない。
「……あなたですよ」
「……えっ?」
「和田さんですよ。僕の好きな人」
「嘘だ」
「嘘じゃないですよ」
決心して言ったのに嘘と否定されるのは悲しい。
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作者名:ユタカ2 | 作成日時:2023年7月26日 17時