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健永のことを意識し出したのはそれからしばらくして。
彼は私のピアノの練習によく付き合ってくれて、楽しく聴いてくれて、その度に心がくすぐったくなった。
心から応援されるとこんなにも嬉しいものなんだと思った。
今すぐどうにかなりたいとかそういった気持ちはないけど、でも私がピアノと向き合ってる間に取られたらどうしようという気持ちになってしまう。
健永は誰のものでもないのに。
本人の自覚がないけど、健永だって高校では目立ってる方だったからね。
「長浜さんが第一にしたいことは何?」
質問を質問で返される。
宮っちって案外鋭かったりする。
分かってるくせに聞き出すんだ。
「……ピアノが好きだからピアノを極めたい。ピアノで食べていける人生にしたい」
「そのためには?」
「他のことなんてなりふり構っていられない」
だけど……と悩みが堂々巡りしそうなところに。
「じゃあ周囲に牽制しておこう」
宮っちは光を差してくれる。
「牽制?」
「そう。今すぐに告白とか考えてないならその子や周囲に静かにアピールしておくの。それだったら長浜さんの負担は大きくないと思うよ」
「例えば?」
「えーと……今後バレンタインとかその子の誕生日とかがあるでしょ。その時に特別感を出したプレゼントをするとか。周囲にはいつも長浜さんが近くにいると思わせて付き合ってるんじゃないかと疑わせるとか」
それだったら今とそこまで変わらない気がして、今の私にも出来そうと思わせてくれた。
「宮っちってもしかしなくても策士?」
「いやいや少し考えてみただけ」
なんて謙遜してるけどさ。
私は宮っちの見方を少し変えた。
「それだったら今と変わらない気がするから、その路線でやってみようかな」
そしてゆくゆくは、健永に私を好きになってもらって、音大に合格したら彼に告白しようかなと考える。
「また迷ったらいつでも相談していいから」
「うん、ありがとう。ところで私の好きな人宮っち分かる?」
鋭い宮っちなら見抜いているような気がして訊いてみる。
「大まかは……」
「嘘だ。分かってるくせに」
こう言えば観念したのか小声になって。
「千ちゃん……だよね?」
「……正解」
宮っちのさっきの言葉から考えるに宮っちはこの時から両片想いって知ってたわけだ。
なんだか少し悔しい。
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作者名:ユタカ2 | 作成日時:2023年7月26日 17時