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男湯女湯の入口で別れる。
この旅館は源泉かけ流しで内風呂1つ、露天風呂が2つあるという。
髪と身体を洗った後、俺は露天風呂に入った。
石畳に頭を預ければ曇りのない夜空が広がっていた。
思えば教師になってから温泉でゆったりといったことがなかった。
日々の疲れが解れていく感じがする。
これは定期的に入りたくなる。
都内でも銭湯や温泉施設を探しておくかなんて考える。
十分温泉に浸かって上がり、休憩スペースでコーヒー牛乳を飲みながらAちゃんを待つ。
さて問題はこの後の展開だ。
―――ねえ、Aとはどこま
―――ストップ
ふとタマに訊かれたことを思い出し、思わず口角が歪んだ。
俺はコンプライアンス野郎なので、ここまで慎重に丁重に石橋を叩きまくって付き合ってきました。
正直二人きりでいるときは常に理性を働かせています。
でもAちゃんは20歳を迎えたから、もういいだろうと思うのです。
だとしたら次は持ってき方になります。
まあ俺が良くたってAちゃんが拒んだら終わりですが。
「コーヒー牛乳私も飲もう」
いつの間にかAちゃんが来てくれて瓶を落としそうになった。
「先生の時給食の牛乳は瓶でした?私紙パックだったんですよ」
「うん、瓶だった。で、瓶の紙のフタを集めて遊んでた」
「やっぱそうなんですね」
緊張をなんとか隠しながらAちゃんと普通に話せて……いるよね?
コーヒー牛乳を飲み終えたら部屋に戻る。
するとAちゃんが俺の両手を取って。
「俊哉さん」
「ん?」
「あの……」
彼女の意図が読めなくて、彼女が少し手を下げてきたので一緒に畳の上に座る。
「私の誕生日、お祝いしていただきありがとうございました」
「うん」
普段だったら遜ってしまうけれど、Aちゃんの顔が真剣なものだったから次の言葉を待つ。
「今回のことだけじゃなくて、先生と生徒の時代から本当にありがとうございます。感謝してもしきれません」
「どういたしまして」
Aちゃんの指の力が少し強くなる。
そして真っ直ぐな視線を俺に向ける。
「俊哉さん……」
「何?」
「……私と出会ってくれてありがとうございます。これからもよろしくお願いします。……俊哉さんが大好きです」
そんなことをキラキラの笑顔で言われちゃったらさあ。
衝動的に俺はAちゃんを抱きしめる。
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作者名:ユタカ2 | 作成日時:2023年2月23日 15時