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「いつもは旦那さんが手伝ってくれるの?」
「たまに。あの人の気が向いたときに」
「じゃあ買い出しの時は大体一人?この量を?」
「さすがに一人の時は量を考えちゃう。今日は高嗣くんが来てくれたから」
「これからも男手が必要な時で旦那さんが忙しい時は俺を呼んでよ。いくらでも手伝うから」
これで弟の役目は果たせるはずだ。
運転する彼女の顔は微笑んだ。
「じゃあお願いしちゃおうかな」
俺の心はぐわんと揺れる。
俺はやっぱりこの人のことが好き。
だけどこの感情は今心の奥底に隠さないといけない。
これが結構難しい。
車は道の駅からAちゃんの家へ。
エコバッグを3つ持ち出してAちゃんが上下する車庫に車を入れるのを待った。
これが本当のデートだったら良かったのにね。
でもそれは叶わないこと。
彼女の左薬指の指輪が太陽に反射した。
するとどこからか声がした。
「A」
低く通る声の方を向く。
「……裕信さん」
すぐに彼女の旦那さんだと分かった。
俺は先手を打つことにした。
「初めまして。二階堂高嗣と申します。Aさんとは幼馴染で」
「初めまして。Aの夫の浅野裕信です。彼女からお話を聞いてます」
旦那さんは所謂イケメンだった。
俺よりも背が高く、質の高そうなスーツが似合っていた。
「妻のお手伝いありがとうございます。荷物は俺が運びますので」
「あっはい……。では僕は失礼します……」
「……高嗣くんありがとう」
「Aちゃんまたね」
俺はその場を後にした。
だって俺と旦那さんじゃ格が違いすぎる。
初めて遭遇してそれを感じ、俺は大人しく帰るしかなかった。
浮かれた気持ちはあっという間に沈んだ。
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作者名:ユタカ2 | 作成日時:2022年9月25日 10時