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世間は6月。
梅雨入りが昨日発表されたけど、今日は晴れていた。
今日は土曜日だけど予定が何一つ入ってなかった。
そんなことも珍しいからベッドの上でうだうだしていたら電話がかかってきた。
相手はなんとAちゃん。
「もっもしもし?」
「もしもし高嗣くん?今日予定ある?」
「ないけど……」
「じゃあ買い物に付き合ってもらえないかな?道の駅で野菜仕入れたいんだ」
「旦那さんは?」
「夫は今日休日出勤で。男手が欲しいんだ」
「もちろん手伝う」
「ありがとう。じゃあ高嗣くんの家にお迎えに行くね」
「うん、待ってる」
そこで俺は電話を切って、ベッドから跳ね起きた。
こうしちゃいられない。
部屋を飛び出して洗面台へ向かう。
「どっどうしたの、あんた」
1階にいた母親が目を丸くした。
「Aちゃんの買い物の手伝いをすることになった」
「そう……」
「家に迎えに来てくれるって。母ちゃんも会う?」
「私はいいわ。向こうのお母さんに会ったときにどんな顔をしたらいいか分からないから」
母の溜め息混じりの言葉に俺は髪をセットする手を止める。
「高嗣、あんた変なことしないでしょうね」
「断じてないって。Aちゃんはもう一人の姉ちゃん、俺は弟」
母なりに息子が駄目な道に行かないか心配なんだろう。
でももう俺は大丈夫。
「あんたがそう言うなら信じるけど……」
「ありがとう、信じてくれて」
身支度を整えて外に出る。
だいぶ前だけどタマが働いてる店でタマが選んでくれた服だから間違いないだろう。
コンパクトな深緑の車がやって来た。
俺の前で止まり、運転席の窓が開いた。
「おはよう高嗣くん」
「おはよう」
まるで彼氏と彼女のような空気感。
でも駄目だ、俺は弟だから。
「助手席いい?」
「どうぞ」
助手席に乗り込む。
フワリと爽やかな花の香りがする。
「ごめんね?せっかくのお休みなのに」
「ううん。Aちゃんが呼んでくれるなら喜んで」
まるでドライブデート。
また夢を見てしまうが頭の中で打ち消す。
車が発進し、景色が動いていく。
俺もそろそろ免許を取れると思うから、早く逆の立場をとまた夢を見て打ち消す。
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作者名:ユタカ2 | 作成日時:2022年9月25日 10時