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「どうしたの?」
俺の言葉に反応する代わりのように彼女はスマホを見た。
少し操作してるので俺はあさっての方を向いた。
そしてまるで何かに脅えるように周りを見た。
「高嗣くんありがとう。ここまででいいから」
「えっ?家もうすぐじゃん。ロビーまで送るよ」
「いいよいいよ。ここまで送ってくれただけでも嬉しいから」
「Aちゃんが濡れちゃうじゃん」
「走ればすぐだよ」
暖簾に腕押しのような会話にうんざりしてくる。
どうしてそんなに頑ななの?
「もしかして旦那さん早く帰ってきた?」
俺も千賀ほどじゃないけど、そういう推理はできるよ?
「えっと、うん……今日はフレックスで早めに行ってて……」
「俺と一緒にいるところを見られちゃ困るの?」
「…………」
Aちゃんはついに何も答えなくなった。
「……ねえ、Aちゃん。本当に旦那さんと上手くいってる?」
また俺は本音を零す。
どう見ても今のAちゃんは幸せって言えるの?
「私は……」
Aちゃんの言葉は若干震えていた。
「私は……上手くやっていきたいと思うよ。夫婦なんだし……」
それってつまり今は上手くいってないってことじゃん。
「……ありがとう高嗣くん。またね」
「……待って!」
俺が手を伸ばしたときには既にAちゃんは傘の外に出てしまっていた。
「…………」
Aちゃんはパタパタと去っていき角を曲がってしまった。
俺は啞然と立ち尽くしてしまった。
伸ばした腕が空しかった。
「…………」
傘に当たる雨音はさっきから増すばかりで他の音は聞こえない。
「……旦那さんじゃなくて、俺にしてよ」
俺の零れた本音も雨にかき消されれば良かったのに、間違いなく俺の耳に返ってきた―――。
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作者名:ユタカ2 | 作成日時:2022年9月25日 10時