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大学の授業が終わり、帰ろうとしたらAちゃんが待っててくれた。
「高嗣くん」
「Aちゃん。先に帰ってもいいのに」
いつからかパート終わりのAちゃんと時間が合えば一緒に帰るようになった。
今はこの時間を失うことが怖かった。
「今日夫は出張に出ちゃったから帰りはいつでもいいの」
「そうなんだ」
なんとなく彼女の表情が心なしかホッとしているように見えるのは俺の気のせいだろうか。
ぶっちゃけ旦那さんとの仲はどうなんだろう。
本当にAちゃんは幸せなのだろうか。
実際見たことのない旦那さんの像がすごくぼんやりしている。
「じゃあAちゃん今晩一人なんだ」
「うん。でも大丈夫。慣れてるから」
「戸締り気を付けてよ」
「大丈夫大丈夫」
聞くと住んでいるのはオートロックのマンションで、しかも4階だから平気だという。
それでも何かあっちゃいけないから念押しした。
オートロックは隙があるっていうし。
「バット持ってる?もしもの時役に立つと思うし」
「高嗣くん心配性だなあ。でもありがとう」
Aちゃん相手だったらいくらでも心配したい。
今度バットをプレゼントしようかなと考える。
一緒の電車に乗る。
時間帯的にそこそこ人がいる。
さりげなく彼女を守れるような位置に立ってみたりする。
俺はやっぱり一度気になったことを訊くことにした。
「Aちゃん旦那さんと仲良くしてる?」
「えっ?仲良くしてるよ?どうしてそう思ったの?」
「なんか……俺の友達たち、好きな人のことを話すとき、その人がまるで隣にいるみたいに、本当に嬉しそうに話すから」
俺の仲間たちは皆そうだ。
心から相手を想ってるからそれが言外に漏れていく感じがする。
「そんなことないよ。私表情が暗いって言われることがあるからきっとそれで」
今と昔は違うかもしれない。
だけど昔はもっとAちゃんは明るかった気がしたから、だから再会したときから違和感があったんだ。
昔みたいに、は時にこっちのエゴかもしれないけど。
「それならいいんだ」
俺はこう言うしかなくて、違和感を持ったまま彼女と別れた。
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作者名:ユタカ2 | 作成日時:2022年9月25日 10時