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「……何かを教えること?」
「その答えじゃ三角かな。教えることだけだったら塾講師にも当てはまるよね。これは俺の考えってことを留意してほしいんだけど、学校の先生は生徒としっかり向き合って、見て、ここに入学した生徒全員が、この学校に入って良かったと思えるようにすることが第一の仕事だと思ってる」
「こないだ言ったこと……」
「一ノ瀬さんにもそう思ってもらいたいの。で、一ノ瀬さんの質問に答えると、俺はご覧のように未だに自分に自信がないし、笑ってごまかそうとする節がある。高校のときはもっとひどくて。そんなときに高校の先生が俺をちゃんと見てくれて、肯定してくれて、これでも幾分マシになったんだよね。だから俺は恩師みたいな先生になりたいと思って、少しでも自分を変えたくて教師になったってわけ」
先生はスラスラと自分をさらけ出している。
羨ましいという感情が沸いてくる。
「俺は一ノ瀬さんの質問に答えたよ。一ノ瀬さんの気持ち、教えて?」
げっと思ってしまった。
それが顔に出ていたらしい。
宮田先生は笑った。
「一ノ瀬さんもそんな顔するんだね。妙に大人びてるから。新鮮」
なんだかこないだから宮田先生のペースに振り回されて面白くない。
と思うと同時にこの人なら信じられるかもしれないと思い始める。
いや、一緒にいる友人たちを信じてないわけじゃないけど。
「あの……私全然決められなくて」
「うん」
「とりあえず将来のために大学に行きたいとは思ってるんですけど……」
「選択肢は広がるからね。間違いじゃないよ」
私はちゃんと見てると言ってくれる人が欲しかったのかもしれない。
もしかしたら道は開けるかもしれない。
そう思ったから。
「宮田先生」
「ん?」
「私ちゃんと考えたいから、迷ったり悩んだりしたら準備室に来てもいいですか?」
まだ何にも決められてないけど、だからといってそのままにしたくはなかった。
私の申し出に先生は。
「喜んで」
そう言って微笑んだ。
まだ全部は言いたくないけれど、少しは言ってもいいのかなという気分にならせてくれた。
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作者名:ユタカ2 x他1人 | 作成日時:2021年7月6日 11時