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そんなことがあっても表面上は変わらない毎日を送っていたら、10月になった。
あるとき進路調査の紙と選択授業の紙が配られた。
3年からは自分の進路に合わせた授業を組むことになる。
「これを元に面談をするから軽くでも考えておいてね」
宮田先生はこう言った。
紙を見ても答えなんて出ないのに、紙を見つめる時間が数十秒あった。
「文乃はやりたいことってあるの?」
2学期に入ってあった席替えで私は文乃と隣になったので訊いてみる。
「私はメイクのこと勉強したいんだ。Aは?」
「それがさっぱり……」
なんやかんやで皆興味のあることややりたいことがあるよね。
私って何だろう。
「大丈夫だよ、Aみたいな子多いって」
「そうかなあ」
強いて取柄といえば真面目なところだけど、それが何になるのという感じだし、私には将来の夢や目標がない。
ただ漠然とした不安だけあった。
紙にはそれとなく書いて後日提出した。
面談の日、時間があったので暇潰しにタマが付き合ってくれた。
「タマは将来の夢や目標はあるの?」
「具体的にはまだ。だけど服飾に興味があるとは宮っちに言った」
「お洒落だもんね、タマ」
「Aは?」
「私は何も……」
「……まあ宮っちに話してみなよ」
「そうする」
私はまた軽く嘘を吐く。
「そろそろ時間だ」
「いってら」
「いってきます」
面談場所である国語科準備室に向かった。
ノックして入ったら待ってましたと出迎えられた。
宮田先生の前に座る。
「おいおいって今日のことを指してたんですか?」
「そうとも言えるかな」
これは長期戦になりそうだなと感じた。
「一ノ瀬さんのことゆっくりでいいから教えて」
人好きしそうな笑顔で言われても困る。
「……一ノ瀬さんは頑固だよね」
「先生は何で先生になったんですか?」
私はずるいなと思いつつ逆質問をしてみた。
なのに先生は嫌な顔一つせずに。
「一ノ瀬さん。学校の先生の仕事って何だと思う?」
質問に質問を重ねてきた。
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作者名:ユタカ2 x他1人 | 作成日時:2021年7月6日 11時