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文化祭は土日にやるから、その分2日振替休日がある。
月曜日の夜、私は家を出た。
私には家族にも友人にも言っていないことがある。
私が向かったのは地元にある繁華街。
そこで私は一人でゲーセンやカラオケで遊んだりしている。
でも今日は……。
「いいの?ファミレスで」
「いいんです。私は嬉しいです」
最近はこうやって本名も知らないお兄さんにご飯を奢ってもらって安くないお小遣いをもらってる。
それ以上のことはしていない。
ただ男の人のお相手をして、それに対するお礼を受け取ってるだけ。
それぐらいいいじゃない。
普段学級委員の仕事を真面目にやって、真面目に勉学に励んで学年の中で上位の成績をキープしてるんだから。
普段品行方正に生きてるんだから。
その反動ぐらい許してよ。
「Aちゃんは可愛いよね」
「ありがとうございます」
今日のお相手はタケシさん。
30代。
身なりは普通のサラリーマンっぽい。
ファミレスなのは良い子ちゃんに見せるためと人の目があるため、お礼が現金なのは後腐れがないため。
ちょっと派手にメイクをしてちょっと派手な格好をすれば誰も私と思わないはずだった。
「今日はありがとうね」
「こちらこそありがとうございました」
「また会えるかな」
「機会があれば」
そんなお世辞を吐く自分に反吐が出そうになりながら、無事お別れする。
安くはないお小遣いの入った茶封筒をバッグに入れて繁華街を出ようとしたら。
「一ノ瀬さん」
ほぼ毎日耳にする明瞭な声がして恐る恐る振り向く。
「やっぱり感心しないな」
宮田先生の表情は珍しく怒っているように見えた。
「どうして……」
確かこの間はたまたま見回っていたらと言っていたが。
「一ノ瀬さんがいるような気がして。丁度良いもんね。明日も休みの振替休日なんて。真面目な君らしい」
実は夏休みにもこうして遭遇していた。
だけど先生は誰にも言わないでいてくれた。
「家送るよ」
前もこうして送ってくれた。
前は私が先導したけど道を覚えたのだろうか。
何で夜に先生と並んで歩いてるんだろう。
「一ノ瀬さん」
先生は溜め息をつきながら。
「君のために言わないでおくけど、こういうことはやめてくれた方が俺は嬉しい」
珍しい。
先生の口調に迷いがない。
はっきりと私を叱っている。
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作者名:ユタカ2 x他1人 | 作成日時:2021年7月6日 11時