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「……一ノ瀬さん?どうした?」
その優しい声色に私は先生に思わず抱き着いた。
「おっと。……もう一度訊くけど、どうした?」
先生の手が私の頭をポンポンと叩く。
「先生……」
「家に戻ろう?」
その声に私が頷いたら、先生は私の手首を優しく引っ張り家へと戻っていく。
私の家に着くまで先生は黙っていたので、私も口を閉ざした。
そして私の家の前に着いたら手首を離して、私の家を見上げる。
「千ちゃんの家でクリスマスパーティーをするって言ってなかったっけ。その帰り?」
「はい……」
「一ノ瀬さんを家に送るのは3回目だね。そして3回とも家の中がひっそりとしている。保護者のサインが必要な書類は君と筆跡が違うから疑わなかったけど……これは妙だ。ご両親は?」
「…………」
これが本当に私の知られたくなかったことだ。
先生にも言えなかったこと。
「一ノ瀬さんのこと、ゆっくりでいいから教えて?」
この人の優しさが私の心を溶かしていく。
「……小学生あたりまでは普通の3人家族だと思ってました。でも中学生の時には父親が毎日家に帰ってこなくなりました。今はほとんど顔を見ません。中学時代は母一人子一人のような生活でしたが、高校生になったら母も毎日見なくなりました……」
「普段の家事は?」
「母がたまに帰ってきてご飯と掃除をしています。自分もできるときはやっていますし、提出物には目を通してサインをしてくれます」
「…………」
宮田先生は眉を曇らせた。
そんな顔をさせてしまうのが申し訳ない。
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作者名:ユタカ2 x他1人 | 作成日時:2021年7月6日 11時