※prologue ページ2
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〜♪〜♪〜♪
ハッキングをしているパソコン画面の傍らで、弾き奏でられるギターの音色。
鬱陶しい、と思ったのは最初の何日間か。
慣らされてしまえば、さして気にもならずパソコン画面に齧りついた。
もし自分に'兄'と呼べる存在が居たなら、ギターを奏であう平穏な生活も悪くはないな、と時折、彼の楽しそうな姿を視界に捉えながら。
茶色がかった前髪を左に流し、顎には短く揃えられた髭。
顔立ちも良く、剃れば確実に実年齢よりも若く見られるだろう彼の名は。
'スコッチ'
黒の組織で、そう呼ばれていた。
やがて鳴り止んだギターの音色。
飽きたのだろうか、と特に気にするわけでもなく没頭していると暫くして、彼の視線を感じた。
「なぁ、'もしも'の話なんだけど」
いつもとは違う彼の神妙な声音に、思わずパソコン画面から視線を逸らし顔を上げる。
まるで射ぬくような真剣な眼差しに、どくん、と胸が一際大きな音を立てた。
「もし俺が死んだら、コイツのこと頼んだからな?」
差し出されたのは一枚の写真。
茶褐色の肌に金色の髪。
鼻筋の通った、所謂'イケメン'の部類に入る顔立ちに、透き通るような青い瞳。
その顔に見覚えがあった。
以前ハッキングした公安が保管していたNOCリストの中。
公安の潜入捜査官。
'降谷 零'
無論、NOCリストの中には彼の名もあった。
スコッチ:諸伏 景光
バーボン:降谷 零
ライ:赤井 秀一
俺は彼がNOCだと知っている。
彼もまた俺が知っていることを知っていた。
彼は今、どの立ち位置で話をしているのだろうか、と思考を巡らせる。
公安として?
黒の組織として?
恐らくは、その両方なのだろう。
ようは死に逝く自分の代わりになれ、と。
「・・・誰が頼まれてやるか」
録でもないことを言い出す彼を睨み付ける。
勿論、そんなくだらないことを言い出すくらいなら死なないように手を打つのが先だろう、と意味を込めて。
辛辣だなぁ、と困ったように眉根を寄せて微笑む彼の頬に両手を伸ばし、その輪郭を包み込んだ。
「死んだら絶対に許さない」
掌を通して伝わる肌触りと体温。
重ねられた手。
絡んだ視線。
仄かに頬を赤く染め、柔らかい笑みを浮かべた彼、諸伏景光はーー
数日後。
胸を貫いた一発の銃声と。
同時に撃ち抜かれて壊れたスマホを残し、世界から消えた。
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作者名:鐘稀 | 作成日時:2019年11月2日 21時