※第１１話 ページ13
※流血表現注意
身体の向きを変え、自分よりも十四、五センチは高いだろう男を見上げた。
額に押し付けられた拳銃。
今にも食らいつきそうな獰猛な瞳で見下ろしてくる長身の男。
「頭だけは止めてほしいなぁ」
普通なら怯む場面で何でもないように呟けば、眼前の男の喉が上下に動いた。
男の瞳に微かに恐怖の色が浮かぶ。
するり、と拳銃に手を伸ばし、気付かれないよう安全装置に触れる。
こんな所で消えるわけにはいかない。
果たさなきゃならない約束がある。
「狙うなら、こっち」
誘導した先には自分の左胸。
男の握る拳銃がカタ、カタ、と音を立て小刻みに震えだす。
にっこり、と音がつきそうなほどの笑みを浮かべれば、いよいよ男の顔から血の気が引いていった。
「は、放せ!！」
無理やり俺の手を振りほどいた男は、振り上げた拳銃の柄で顔面を横殴りされた。
弾き飛ばされた黒のゴーグル。
そういえば、カラコンしてくるの忘れたな。
殴られたことよりも、意識が其方へ向かう。
口の中を切ったらしく、鉄の味が広がった。
ゆっくりと殴られた顔を正面の男へ戻す。
「ひっ!？」
短い悲鳴が上がった。
男の眼前に晒されたのは俺の両目に宿る紅。
後退った拍子に男が躓き、尻餅をついた。
その一瞬の隙を逃すことなく一気に距離を詰め、男に跨がる。
ダンッーー
男の肩を床に叩きつけ抑え込んだ。
脇腹に刺さったままの果物ナイフを迷いなく抜き取ると、呆然としている男の顔面のすぐ横に突き立てた。
「このまま大人しくしてろよ」
すでに放心状態にある男に告げ「あ〜ぁ」と深い溜め息を吐く。
景光に貰った、最初で最期のプレゼント。
今となっては大事な形見。
「この外套、気に入ってたのにな」
穴が開き、自分の真っ赤な血で染まった外套を翳して、がっくり、と項垂れた。
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作者名：鐘稀 | 作成日時：2019年11月2日 21時
