Lillyの王様 ×five×《ars/s.s》 (ページ23)

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Episode29 -3 ページ23

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すぐに戻ってきた翔さんは空になった私のマグカップをもってキッチンへと行ってしまった。

その背中を追いかけて近づいて、マグ二つを洗っている翔さんに話しかける。

「あの、翔さん」

「どうした、A」

たぶん私は少しでも翔さんから離れることが不安だった。

上手く言えないけれど、翔さんが触れられる距離にいないと不安になってしまうくらいには、私の心にはいろいろなことが積もっていたのだと思う。

きゅっと翔さんの手が水栓を捻る。

シンクに流れ落ちる水の音がなくなったその瞬間、私は意を決して翔さんの顔を見た。

「一緒に入ってくれますか」

「え……？」

言いながらさすがに恥ずかしくてうつむく。

それでもこの漠然とした不安の中で、少しでも翔さんの傍にいることを実感しておきたかった。

「…やっぱ大丈夫じゃねぇだろ、お前」

「あ…」

するりと頬を撫でられる。

「喰われる覚悟だけしとけよ」

俺様な王様の顔をして翔さんがニヤリと笑う。

言葉とは裏腹にその表情はただ優しいだけだった。

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