僕が君の傘になろう。３

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「早く乗れって。
お前はずっと俺にかしずいて生きてけばいいんだよ。
心の底では、それを望んでんだろ？
幸せなんて、お前には似合わねーって、
自分が一番、分かってんだろ？」


高橋が、苛立った声で吐き捨てて、
立ち尽くしたまんまのAの身体を、
物のように、乱暴に車の中に押し込もうとしてる。


「違う！
Aは俺が守る。
二人で幸せになるねん」


俺を見つめてるAの瞳は、
不安げに、まだゆらゆら揺れてて・・・


その迷いが手に取るように伝わるけど。


「A！行ったらあかん！
俺んとこ、戻って来い！」


立ちはだかる高橋と母親を押しのけて、

もう半分、車の中にあったAの手を、
必死で掴もうとして、
手を伸ばす。

指先がかすかに触れた瞬間。


「りょ、お、」


確かにAが、
はっきりと、俺の名前を音にした。


「A！
おいで」


確かに俺の声は、
Aの胸に届いて。


Aが、ありったけの勇気で、

不幸の中へと閉じ込めようとしてる二人から逃れて、
俺の腕の中に、
飛び込んできた。


降りしきる雨の中、
その華奢な身体をしっかりと抱きとめる。


そのまま、
濡れたアスファルトに、
抱き合いながら、崩れ落ちた。


俺たちを見下ろしながら、
高橋が舌打ちをしてる。


「錦戸、お前にくれてやるよ。
こんな女」


その表情は見えへんけど、

しばらくして、
乱暴にドアを閉める音と、
車のエンジン音が聞こえてきた。


車が急発進して、
泥水が跳ね上がる。


Aを庇って、
包み込んだ時、


残された母親が、
ハイヒールを脱いで投げつけてきた。

鋭利な刃物のようなそれは、

俺の耳を掠めて、
転がって、
やがて排水溝へと、落ちていった。


容赦なく叩きつける雨から、

俺が傘になって、

この子を守りぬく。


そう決めた。







渋滞のヘッドライトの波の中を、
かいくぐるように、雨に濡れて、二人で歩く。


電車も止まってもうて、
タクシーも捕まれへん。


乗り捨ててきた俺の車に辿り着いた時には、
もうお互い、びしょ濡れで、

体温奪われたんか、
Aは、夏やっていうのに、
ガタガタ震えてる。

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