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これは『欲動』の中？
目の前の正門が、章次郎と重なる。
いや、そうじゃない。
元々“秋坂章次郎”は、私が正門良規を想って創った人物だから。
だから、章次郎は正門であって
でも、正門は章次郎ではなくて
あれ、
良「結城？どうかしたん？」
「え、……ごめん。ちょっと混乱してた」
良「大丈夫？」
「うん。正門が一瞬、章次郎さんに似てたからビックリしちゃって」
良「似てたも何も俺が演じてたやん(笑)
もぉ、疲れてるんちゃうん？」
「でも……いや、そうかも」
良「早よお家に帰ろ。
あったかいもん食べてお風呂入って。
ひなちゃんも言うてたやろ。いっぱいリフレッシュせなって」
「……うん、そうだね」
ドキドキの間に微かにドクドクが混じる心臓の音を感じながら
さりげなく手を繋いで歩き出す正門の半歩後ろを歩く。
なんだろう、この気持ち。
自分の感情に整理がつかなくて首を傾げたら
「あ、」って正門が思い出したように声をあげた。
良「そう言えばお嬢さん、27日って予定空いてたりする？」
「えっと、何曜日だっけ」
良「日曜。半日、できれば1日ほしいんねんけど」
「ちょっと待ってね、……うん、空いてるけどどうかしたの？」
良「よかった。ほんならこれ、一緒に行きませんか？」
「え、……これ」
そう言って目の前に出てきたのは
京都でやってるゴッホの展覧会の招待状で。
大盛況らしく今回は見逃しかなぁなんて思ってたから
ビックリして正門を見る。
良「俺がゴッホ見たいって話したんを覚えてくれとったらしくて
ゼミの先生がくれてん。
2人までえぇみたいやから、せっかくやしと思って」
「どう？」って視線をこっちに投げて微笑む正門に
断る理由は特にないから頷いて返したら、
嬉しそうに「よっしゃ！」ってガッツポーズしてる。
良「ほんなら決まりやな。
ついでにプチ観光しようや。せっかく行くんやし」
「いいよ、行きたいところ考えとく」
良「はぁ、楽しみやなぁ」
「ふふ、嬉しそうだね？」
良「結城は？楽しみちゃうの？」
「……けっこう楽しみ」
良「ほら(笑)」
繋いだ手を軽く振りながらにこにこしてる正門が可愛いから
きゅ、と少しだけ強く手に握ったら
くりっとした目を細めて、指先をそっと絡めた。
その感情を何て呼ぶか。
それはきっと分かっていて、
だけど、その名前を呼ぶだけの勇気をお互いまだ持ってない。
所詮、似た者同士の2人だから。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年12月1日 22時
